不動産・ホステル投資会社がSNS上の「投資詐欺」引用投稿に対し発信者情報開示を求めたが、同定可能性と権利侵害の明白性が否定され棄却された事例
ホステル事業への投資勧誘を行う株式会社(株式会社建築商売)が、ツイッター上で「#ホステル投資詐欺」「儲かったのはその業者のみです」等と記載した引用ツイートおよび元従業員の肖像写真をトリミングしたプロフィール画像について、名誉毀損および著作権・著作者人格権侵害を主張し、経由プロバイダ(ソフトバンク)に発信者情報開示を求めた事案です。東京地方裁判所は、(1)プロフィール画像については撮影者から原告への著作権譲渡を認める客観的証拠がない、(2)各ツイートには原告の名称がなく、同一タイムライン上の別ツイートや孫引用ツイー…
この判例と自分の状況を照合(発信者開示・同定可能性と明白性)
基本情報
- 判決結果
- 原告敗訴
- カテゴリ
- SNS・ネット
- 裁判所
- 東京地方裁判所
- 判決日
- 2021-07-07
裁判所・判決日: 東京地方裁判所 / 2021-07-07
判決結果: 原告敗訴
カテゴリ: SNS・ネット
主な争点
- SNS引用投稿・ハッシュタグにおける同定可能性と権利侵害の明白性 - ツイッター上の引用投稿自体に原告の名称がなく、別日の投稿のハッシュタグ(「#建築 #商売」等)を介して一般の閲覧者が原告を対象と同定できるか、および報道等が存在する中で違法性阻却事由の不存在(権利侵害の明白性)が認められるか。
- プロフィール画像の著作権譲渡・帰属の成否 - 外注の撮影者が作成した請書の記載(「使用肖像権」等)から、原告がプロフィール画像の著作権を取得したと認められるか。
裁判所の判断ロジック
- ハッシュタグや別ツイートを介した「同定可能性」の厳格な判断: 対象ツイート自体に原告名がなく、別日のツイートや孫引用ツイートの「#建築 #商売」「#建築商売」等のハッシュタグが他の一般ハッシュタグと並記されているだけでは、一般の閲覧者が「ホステル投資詐欺」の主体を原告と同定するとは認められない。
- 違法性阻却事由(公共性・公益目的・真実性)をうかがわせる事情と明白性の否定: プロバイダ責任制限法4条1項1号の「権利が侵害されたことが明らか」とは違法性阻却事由の存在をうかがわせる事情がないことを意味するところ、複数の報道や弁護士の受任通知があり、それが虚偽と示す的確な証拠がない以上、名誉毀損の明白性は認められない。
- プロフィール画像の著作権帰属の立証不足: 撮影者作成とされる「請書」には「使用肖像権」の記載しかなく、宛先横に原告社印が押されているなど不自然な点があり、原告が撮影者から著作権を譲り受けたとは認められない。
時系列
- 2020/05〜07 - ツイッター上での引用ツイート投稿・プロフィール画像設定
氏名不詳の発信者が「#ホステル投資詐欺」等のハッシュタグを付した引用ツイート(本件ツイート1・2)を投稿。
- 2020/06〜09 - 弁護士からの受任通知およびテレビ・ネット報道
投資被害救済の弁護士から損害賠償を求める受任通知が届き、テレビ番組や不動産投資サイトでホステル投資トラブルが報道された。
- 2020後半 - ツイッター社からのログインIP開示を経て経由プロバイダを提訴
ログインIPアドレスの割当を受けたソフトバンクに対し、発信者情報(氏名・住所)の開示を求めて東京地裁に提訴。
- 2021/07/07 - 東京地方裁判所判決(原告の請求をいずれも棄却)
著作権の帰属、各ツイートの同定可能性、および違法性阻却事由の不存在(権利侵害の明白性)をいずれも否定し、開示請求を棄却した。
実務上の学び
- 発信者情報開示における「同定可能性」の壁(89308との対比): 対象投稿自体に会社名や個人名が明記されておらず、数週間前の別投稿や二重引用先のハッシュタグをたどらなければ対象が分からない場合、一般閲覧者基準での「同定可能性」が否定され開示請求が棄却されることがあります。
- 報道や集団訴訟等の客観的事実がある場合、開示請求側が「虚偽であること」を立証できなければ棄却される: 投資トラブルや社会問題として報道・弁護士通知がすでに存在する場合、単なる「満室時想定」の計算表1枚だけでは真実性の抗弁を覆せず、違法性阻却事由の不存在(権利侵害の明白性)が否定されます。
- アイコン画像の著作権侵害で開示請求する場合は契約書・著作権譲渡証の客観的証拠が不可欠: 外注カメラマンが撮影した写真を根拠に法人が著作権侵害を主張するには、「肖像権」ではなく「著作権(および翻案権)」が譲渡されたことを示す客観的な契約証拠が必要となります。
よくある質問
本件写真はどのような被写体を撮影したものであり、著作権の帰属について裁判所はどう判断しましたか?
以上によれば,甲4,5及び22をもって,原告がGから本件写真の著作 権一切を譲り受けたと認めることはできない。 したがって,原告に本件写真の著作権が帰属するということはできず,本 件写真の撮影者ではない原告にその著作者人格権が帰属するということもで きない。
本件ツイート1が原告を対象としているか(同定可能性)について、裁判所はどのように判断しましたか?
しかし,6月22日付けツイートにある「#建築 #商売」との記載は,本文 の下に,2つの連続した個別のハッシュタグとして,「#リノベ」ほか6つの ハッシュタグと並べて表示されているにすぎず,「#建築 #商売」との記載か ら,その一般の閲覧者が,これを原告の名称と理解するとは考えられず,そ うすると,「社長のT口」との記載についても,一般の閲覧者がこれをもっ て原告代表者を示すものと受け取るとは認められない。 したがって,本件ツイート1に接した一般の閲覧者が,同ツイートにいう 「ホステル投資詐欺」をしたのが原告であると認識するとは認められない。
プロバイダ責任制限法4条1号にいう「権利が侵害されたことが明らか」の意味と、事実摘示による名誉毀損における主張立証責任について裁判所はどう判示していますか?
ア プロバイダ責任制限法4条1号にいう「権利が侵害されたことが明らか」 とは,違法性阻却事由の存在をうかがわせるような事情が存在しないこと を意味するものと解されるところ,事実摘示による名誉毀損については, 当該行為が公共の利害に関する事実に係り,専ら公益を図る目的に出た場 合において,摘示された事実が真実であることが証明されたときは,その 行為の違法性が阻却されるので,開示請求者は,上記真実性の抗弁の成立 をうかがわせるような事情がないことを主張立証する必要がある。
本件ツイート1について、違法性阻却事由の存在をうかがわせるような事情の有無はどのように判断されましたか?
ウ 以上のとおり,原告が詐欺的な投資勧誘を行っているとの報道がされ, 弁護士からも損害賠償を求める通知がされている一方,上記報道や通知が 虚偽であることを示す的確な証拠は存在しない。原告は,甲9の収益計算 表に基づき利益の出ている物件もあると主張するが,甲9は「満室時想定」 と左上に記載された物件名の記載のない一枚の書類にすぎず,これをもっ て,本件ツイート1について違法性阻却事由の存在をうかがわせるような 事情がないということはできない。また,本件ツイート1は,一般の投資 家に対するホステル投資詐欺を問題にするものであるから,公共の利害に 関する事実を内容とするものでないとはいえず,専ら公益を図ることを目 的としていたことも否定し得ない。 エ 以上によれば,本件ツイート1が原告の社会的評価を低下させるもので あるとしても,その違法性を阻却する事由が存在することをうかがわせる ような事情がないということはできないので,原告の名誉が毀損されたこ とが明白であるということはできない。
本件ツイート2について、一般の閲覧者が「詐欺」の主体を原告と認識できるかどうかの判断はどうなりましたか?
しかし,本件ツイート2の引用ツイートが5月13日付けツイートを引用 していたとしても,一般の閲覧者が,本件ツイート2の「#ホステル投資」と の記載を,その引用ツイートが更に引用した5月13日付けツイート(甲1 0)の記載と結びつけて理解するとは考え難い。 また,同ツイートにある「#建築商売」とのハッシュタグにはそれが会社の 名称を示すものであることを示す文言はなく,「#建築商売」及び「#E」と のハッシュタグの間には「#簡易宿泊所」などの関係のないハッシュタグも記 載されていることなどによると,本件ツイート2の一般の閲覧者が,「#建築 商売」とのハッシュタグをみて原告の名称と認識し,ホステル投資詐欺の主 体と理解することは困難であり,そうすると,「#E」が原告代表者であると 認識することも無理である。 したがって,本件ツイート2に接した一般の閲覧者が,同ツイートにいう 「詐欺」の主体が原告であると認識するということはできない。
関連する論点
- 誹謗中傷と発信者情報開示の判断ポイント
SNSや匿名掲示板(マンションコミュニティ等)の投稿に対する発信者情報開示請求について、開示が認められた判例(89308・89839・95097)と棄却された判例(90499・92201)を判決原文の比較表で整理し、同定可能性・事実摘示と論評・違法性阻却事由の判断軸を解説します。
結論が分かれる判例
- ネットで中傷された不動産会社らが、通信事業者に対し投稿者の情報の開示を求めた事案
反対結論(原告勝訴)。掲示板「マンションコミュニティ」での不動産会社に対する中傷投稿について、同定可能性と違法性阻却事由の不存在を認め発信者情報開示を命じた。
- ネット上の誹謗中傷投稿に対する発信者情報開示請求が認められた事案
反対結論(原告勝訴)。社会的評価を低下させる具体的事実の摘示であり違法性阻却事由をうかがわせる事情もないとして、発信者情報開示請求を認容した。
判決文抜粋
- 1 原告の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。
- 1 本件は,ホステル事業への投資勧誘を業とする原告が,経由プロバイダであ る被告に対し,氏名不詳の発信者が,ツイッター上のアカウントにおいて,別 紙投稿記事目録1記載1のプロフィール画像(以下「本件プロフィール画像」 という。)を使用したことにより,別紙写真目録記載の写真(以下「本件写真」 という。)に係る原告の著作権(複製権,翻案権,公衆送信権)及び著作者人 格権(同一性保持権)を侵害するとともに,別紙投稿記事目録1記載2及び同 目録2記載の各ツイート(以下,それぞれ「本…
- 以上によれば,甲4,5及び22をもって,原告がGから本件写真の著作 権一切を譲り受けたと認めることはできない。 したがって,原告に本件写真の著作権が帰属するということはできず,本 件写真の撮影者ではない原告にその著作者人格権が帰属するということもで きない。
- しかし,6月22日付けツイートにある「#建築 #商売」との記載は,本文 の下に,2つの連続した個別のハッシュタグとして,「#リノベ」ほか6つの ハッシュタグと並べて表示されているにすぎず,「#建築 #商売」との記載か ら,その一般の閲覧者が,これを原告の名称と理解するとは考えられず,そ うすると,「社長のT口」との記載についても,一般の閲覧者がこれをもっ て原告代表者を示すものと受け取るとは認められない。 したがって,本件ツイート1に接した一般の閲覧者が,同ツイートにいう …
- ア プロバイダ責任制限法4条1号にいう「権利が侵害されたことが明らか」 とは,違法性阻却事由の存在をうかがわせるような事情が存在しないこと を意味するものと解されるところ,事実摘示による名誉毀損については, 当該行為が公共の利害に関する事実に係り,専ら公益を図る目的に出た場 合において,摘示された事実が真実であることが証明されたときは,その 行為の違法性が阻却されるので,開示請求者は,上記真実性の抗弁の成立 をうかがわせるような事情がないことを主張立証する必要がある。
- ウ 以上のとおり,原告が詐欺的な投資勧誘を行っているとの報道がされ, 弁護士からも損害賠償を求める通知がされている一方,上記報道や通知が 虚偽であることを示す的確な証拠は存在しない。原告は,甲9の収益計算 表に基づき利益の出ている物件もあると主張するが,甲9は「満室時想定」 と左上に記載された物件名の記載のない一枚の書類にすぎず,これをもっ て,本件ツイート1について違法性阻却事由の存在をうかがわせるような 事情がないということはできない。また,本件ツイート1は,一般の投資…