ネットで中傷された不動産会社らが、通信事業者に対し投稿者の情報の開示を求めた事案
インターネット掲示板に誹謗中傷を書き込まれた不動産会社と経営者が、投稿者を特定するためにプロバイダを訴えた事案です。裁判所は権利侵害の事実を認め、情報の開示を命じました。
基本情報
- 判決結果
- 原告勝訴
- カテゴリ
- SNS・ネット
- 裁判所
- 東京地方裁判所
- 判決日
- 2019-12-11
裁判所・判決日: 東京地方裁判所 / 2019-12-11
判決結果: 原告勝訴
カテゴリ: SNS・ネット
主な争点
- 投稿記事による権利侵害の明白性 - インターネット上の投稿サイト(マンションコミュニティ)に投稿された本件記事の内容が、原告らの権利(名誉権等)を明白に侵害しているといえるか。
- 発信者情報の開示を受ける正当な理由 - 原告が損害賠償請求権の行使等のために、被告が保有する発信者情報の開示を受ける「正当な理由」があるか。
- SMS用電子メールアドレスの開示対象性 - 開示請求の対象に、SMS(ショートメッセージサービス)で利用される電話番号が「電子メールアドレス」等の発信者情報として含まれるか。
裁判所の判断ロジック
- 権利侵害の明白性: 投稿内容によって原告の権利が侵害されたことが明らかであると認められる場合、法に基づき発信者情報の開示が認められる。
- 開示情報の必要性: 損害賠償請求権などの法的権利を行使するために、投稿者を特定するための情報が必要である場合には、情報の開示が認められるべきである。
- SMS情報の対象: SMSの送受信に利用される電話番号等の情報は、発信者の特定に資する情報として、法律上の開示対象に含まれると解される。
時系列
- 2019年以前 - 匿名利用者による投稿サイトへの記事投稿
氏名不詳の人物が、投稿サイト「マンションコミュニティ」において、不動産会社である原告らに関わる内容を投稿した。
- 2019年以前 - 原告らによる権利侵害の把握
原告(不動産会社及びその代表取締役)が投稿を確認し、不当な投稿により自らの名誉等の権利を侵害されたと判断した。
- 2019年 - 発信者情報開示請求訴訟の提起
投稿者の身元を特定して損害賠償請求等を行うため、原告らは経由プロバイダである被告を相手取り、情報の開示を求めて提訴した。
- 2019年 - 裁判所における審理の実施
プロバイダ責任制限法に基づき、投稿による権利侵害の明白性や、開示を求める情報の妥当性について、裁判所で審理が行われた。
- 2019/10/09 - 口頭弁論の終結
当事者双方による主張および証拠の提出が締め切られ、裁判所が判決を下すための審理が完了した。
- 2019/12/11 - 判決の言い渡し
裁判所は原告らの請求を全面的に認め、被告に対し、SMS用メールアドレスを含む発信者情報の開示を命じる判決を言い渡した。
実務上の学び
- 電話番号等の通信情報も開示対象となり得る: インターネット上の投稿により権利が侵害された場合、プロバイダ責任制限法に基づき、氏名や住所だけでなく、SMS(ショートメッセージサービス)で使用される電話番号に関連する情報についても、開示を求めることが可能である。
- 権利侵害が明らかであることの必要性: 発信者情報の開示が認められるためには、投稿内容によって名誉権などの権利が侵害されたことが客観的に明白であり、かつ損害賠償請求権の行使等のために情報を取得する必要性が認められなければならない。
- 法人と個人の双方に対する名誉毀損への対応: 企業(法人)に関する投稿であっても、その内容が代表者個人への攻撃を含む場合、法人と代表者個人の両者の権利侵害を理由として、投稿者の特定に向けた情報開示の手続きがとられる事例が存在する。
- 経由プロバイダに対する法的な開示請求: 投稿サイトの運営者だけでなく、投稿者がインターネット接続に利用した経由プロバイダに対しても、法律に基づき、不法行為に基づく損害賠償請求権の行使を目的とした発信者情報の開示を求めることが可能である。
よくある質問
本件の判決の主文の内容を教えてください。
1 被告は,原告らに対し,別紙1発信者情報目録記載の各情報を開示せよ。 2 訴訟費用は被告の負担とする。
判決文において、SMS(ショートメッセージサービス)はどのように説明されていますか。
SMS(Short Message Service)とは,携帯電話やPHS同士で文章をやり取りするサービスであり,SMSの送受信においては,電話番号が送受信先の電子メールアドレスとして機能することとなる。
プロバイダ責任制限法4条1項に規定される「発信者情報」の定義は何ですか。
氏名,住所その他の侵害情報の発信者の特定に資する情報であって総務省令で定めるものをいう。
原告らが発信者情報の開示を求めた目的は何ですか。
当該投稿をした者に対する不法行為に基づく損害賠償請求権等を行使するため
被告は、プロバイダ責任制限法上どのような者に該当すると判断されていますか。
被告は,プロバイダ責任制限法2条3号の「特定電気通信設備を用いて他人の通信を媒介し,その他特定電気通信設備を他人の通信の用に供する者」(特定電気通信役務提供者)に該当する者である。被告は,本件記事につき,プロバイダ責任制限法4条1項の「開示関係役務提供者」に該当する。
関連する論点
- 誹謗中傷と発信者情報開示の判断ポイント
匿名投稿でも開示が認められるのはどんな場面か、誹謗中傷の判例でよく争われる論点を整理したまとめです。
判決文抜粋
- 被告は,原告らに対し,別紙1発信者情報目録記載の各情報を開示せよ。訴訟費用は被告の負担とする。
- 本件は,インターネット上の投稿サイトに氏名不詳者がした投稿によって権利を侵害されたと主張する原告らが,損害賠償請求権等を行使するため,経由プロバイダである被告に対し,プロバイダ責任制限法に基づき発信者情報の開示を求めた事案である。
- 原告らが開示を求める発信者情報には,SMS用電子メールアドレスが含まれる。SMS(ショートメッセージサービス)の送受信においては,電話番号が送受信先の電子メールアドレスとして機能することとなる。
- 被告は、本件記事に原告らの氏名等が一切記載されておらず、対象が原告らであることが明らかではないと主張した。対して原告らは、投稿内容は明白に原告らに関するものであり、同定可能性が認められると主張した。
- 原告らは、本件記事が原告らの社会的評価を低下させ、名誉感情を侵害していることは明らかであり、違法性阻却事由も存在しないため、権利侵害の明白性があると主張した。
- 原告らは、損害賠償請求権行使のために情報の開示が必要であると主張。被告は、氏名・住所の開示があれば十分でありメールアドレスの開示理由はないと反論したが、原告らは連絡不能になる事態も想定され、法律上も個別に正当な理由を判断する建付けではないと主張した。