基本使用料半額と引き換えの「2年縛り・自動更新」解約金9975円条項が消費者契約法9条1号・10条に反しないとして棄却された事例
基本使用料を通常の半額(50%割引)とする2年間の定期契約(「ひとりでも割50」「ファミ割MAX50」)および2年経過後の自動更新契約において、更新月(満了月の翌月)以外に解約すると一律9975円(税込)の解約金を課す条項について、適格消費者団体が差止めを求め、個人利用者11名が支払済み解約金の不当利得返還を求めた訴訟です。京都地方裁判所は、(1)解約金条項は違約金条項として消費者契約法9条1号・10条の審査対象となるとした上で、(2)中途解約時までに受けた基本使用料割引額の累積平均(月額平均2160円×平均経過…
基本情報
- 判決結果
- 原告敗訴
- カテゴリ
- 消費者トラブル
- 裁判所
- 京都地方裁判所第2民事部
- 判決日
- 2012-03-28
裁判所・判決日: 京都地方裁判所第2民事部 / 2012-03-28
判決結果: 原告敗訴
カテゴリ: 消費者トラブル
主な争点
- 消費者契約法9条1号に定める「平均的な損害の額」の超過性 - 2年間の定期契約を中途解約する際に発生する9,975円の解約金が、当該契約の解除に伴い被告に生ずべき「平均的な損害の額」を超え、同条項が無効となるか否か。
- 自動更新後の解約金条項の有効性(消費者契約法10条等) - 2年の契約期間経過後に自動更新された後、さらに中途解約する場合に解約金を課す条項が、消費者の利益を不当に害するものとして消費者契約法10条等に抵触し無効となるか否か。
- 適格消費者団体による差止請求権の成否 - 消費者契約法12条に基づき、内閣総理大臣の認定を受けた原告(適格消費者団体)が、被告に対して不当な契約条項の使用差し止めを求めることができる要件を満たしているか。
裁判所の判断ロジック
- 消費者契約法9条1号の「平均的な損害」(3万0240円)と解約金9975円: 2年間の契約期間内に中途解約しない条件で基本使用料の50%値引きを受けている以上、契約開始から中途解約までの割引累積額の平均(月2160円×平均14か月=3万0240円)は「平均的な損害」にあたり、9975円はこれを下回るため法9条1号に該当しない。
- 解約権制限と基本使用料50%割引の対価バランス: 役務提供型契約の一般法理に比べ消費者の解約権を制限・義務を加重する(法10条前段該当)ものの、基本使用料50%割引という見合った対価を受けており、制限期間も不当に長いとはいえない。
- 申込書・ガイドブック・更新前後の請求書による明確な説明と合意: カタログ、ガイドブック、別紙申込書で「2年単位の継続利用条件・自動更新・解約金9975円」が明記され、満了月前後の請求書でも自動更新の通知・注意喚起がされているため、法10条後段(信義則に反して一方的に害する)には該当しない。
時系列
- 2007/09 - 2年定期契約割引サービス(ひとりでも割50・ファミ割MAX50)提供開始
2年間の継続利用と自動更新を条件に基本使用料を50%割引し、更新月以外の解約時に9975円を課すプランを開始。
- 2010/03/01 - 適格消費者団体による消費者契約法41条の事前請求
原告法人が被告に対し、本件解約金条項を内容とする意思表示を行わないよう書面で請求した。
- 2010〜2011 - 差止請求訴訟(甲事件)および個人11名の不当利得返還請求訴訟(乙事件)提起
適格消費者団体による差止請求と、解約金9975円(2回線契約者は1万9950円)を支払った個人原告らによる返還請求が併合審理された。
- 2012/03/28 - 京都地方裁判所判決(原告らの請求をいずれも棄却)
当初期間・自動更新後ともに解約金9975円は平均的損害(3万0240円)を下回り、消費者契約法9条1号・10条に該当しないとして全請求を棄却した。
実務上の学び
- 同じ「2年縛り・自動更新解約金9975円」でも平均的損害の算定で結論が分かれる(82664との対比): 本判決(82202)は中途解約までの割引累積額平均(3万0240円)を損害と認めて解約金9975円を有効とした一方、同年の別判決(82664)は解約後の平均的損害計算から一部超過を認めて差止め・一部返還を命じており、割引構造と平均的損害の立証が結論を分けます。
- 消費者契約法10条前段(義務加重)を満たしても、後段(信義則違反)で有効となる判断枠組み: いつでも解約できる一般法理と比べて消費者の義務を加重していても(10条前段)、①50%割引という実質的対価、②平均的損害以下の金額、③別紙申込書や更新前請求書での明確な事前説明・通知が揃うと、10条後段の不当性が否定されます。
- 自動更新条項を有効とするために事業者に求められる説明・通知水準: 本体契約書とは別の割引サービス申込書での明示に加え、契約満了月前後の請求書で自動更新と申出期間を通知していた事実が、更新後の解約金条項を有効と認める重要な根拠とされました。
よくある質問
本件解約金条項が契約上の対価の合意として消費者契約法の規制対象外になるかについて、裁判所はどう判断しましたか?
(4) したがって,本件解約金条項は,実質的な内容としても,契約上の対価 についての合意ということはできず,契約期間内の中途解約時の損害賠償の 予定又は違約金についての条項であると認められるから,法9条1号及び1 0条を基準とする審査が及ぶというべきであるから,争点(1)に関する被告 の主張には理由がなく,原告らの主張に理由がある。
消費者が本件契約を契約期間内で中途解約した場合、標準基本使用料金と割引後基本使用料金との差額はどう評価されましたか?
c そうすると,消費者が本件契約を契約期間内で中途解約した場合に は,被告は,当該消費者に対し,現に標準基本使用料金の金額に相当 する役務を提供したにもかかわらず,その対価としては割引後基本使 用料金の支払しか受けていないこととなり,しかも,被告が継続して 安定した収入を得られるという前提も存在しなくなったのであるか ら,この期間の標準基本使用料金と割引後基本使用料金との差額につ いては,被告に生じた損害ということができる。
本件契約の更新前の中途解約による「平均的な損害」はいくらと算定され、法9条1号該当性はどう判断されましたか?
エ そうすると,本件契約の更新前の中途解約による「平均的な損害」は, 上記ウ(ア)の2160円に(イ)の14か月を乗じた3万0240円である と認められ,本件当初解約金条項に基づく支払義務の金額である9975 円はこれを下回るものであるから,本件当初解約金条項が法9条1号に該 当するということはできない。
本件解約金条項は、消費者契約法10条前段(消費者の権利制限・義務加重)についてどう判断されましたか?
(4) そして,本件解約金条項は,消費者に対し,契約期間の末日の属する月 の翌月を除く月に本件契約を解約する際に,常に一定の金額の支払義務を課 しているものであり,民法651条2項は相手方に不利な時期に委任の解除 をしたときに限って損害賠償義務を課しているものに過ぎないことをも踏ま えれば,上記(2)にいう「公の秩序に関しない規定」に比較して消費者の権 利を制限し,消費者の義務を加重しているというべきである。
本件更新後解約金条項が消費者契約法10条後段に該当しない(有効である)と判断された理由は何ですか?
そうすると,被告は,消費者に対し,本件更新後解約金条項についてその 性質を明確に説明しており,被告と消費者との間には,このような説明を踏 まえた上で,本件更新後解約金条項に基づく明確な合意が成立している上に, 被告は,消費者に対し,本件契約を締結した後も,消費者が本件更新後解約 金条項に基づき被告に対して負う義務の存在について適切に注意を促してい るというべきである。 (5) 以上のとおりの各事実を踏まえれば,消費者は,本件契約が更新された 後に解約金の支払義務を負うとされることによって解約権の制限を受けるも のの,そのことに見合った対価を受けており,制限の内容も不合理なもので はないから,本件契約が更新された後における解約金の支払義務を定める条 項が,金額を問わず一般的に法10条後段に該当するとはいえない。 さらに,本件更新後解約金条項における9975円という金額は合理的な ものであり,被告と消費者との間には,本件更新後解約金条項に関して存在 する情報の質及び量並びに交渉力の格差が存在するということはできないと いえるから,本件更新後解約金条項もまた,法10条後段には該当しないと 解するのが相当である。
関連する論点
- 定期購入・サブスク解約と解約金条項の判断ライン
英会話教室のポイント継続購入の返金(特定商取引法49条)、サブスク・定期契約の自動更新と解約金(消費者契約法9条1号・10条)、キャンセル不可特約について、返金を認めた判例(6676・82664・84321)と認めなかった判例(82202・93729)を判決原文の比較表で整理します。
結論が分かれる判例
- 消費者団体と利用者が携帯電話の「2年縛り」解約金の差し止めを求めた事件
反対結論(原告一部勝訴)。同じ京都地裁の2年定期契約解約金9975円訴訟で、解約後の平均的損害を超える部分を消費者契約法9条1号により無効とし差止め・一部返還を命じた。
- 英会話教室のポイント一括購入契約を「中途解約」した受講者が、割高単価で再計算する精算条項の無効と返金を勝ち取った事例
反対結論(原告勝訴)。英会話ポイント一括購入の中途解約時に、割引前の高額単価(2050円→3800円)で消化分を再計算する条項を特定商取引法49条7項により無効とし返金を命じた。
判決文抜粋
- 1 原告らの請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は甲事件及び乙事件を通じて原告らの負担とする。
- (4) したがって,本件解約金条項は,実質的な内容としても,契約上の対価 についての合意ということはできず,契約期間内の中途解約時の損害賠償の 予定又は違約金についての条項であると認められるから,法9条1号及び1 0条を基準とする審査が及ぶというべきであるから,争点(1)に関する被告 の主張には理由がなく,原告らの主張に理由がある。
- c そうすると,消費者が本件契約を契約期間内で中途解約した場合に は,被告は,当該消費者に対し,現に標準基本使用料金の金額に相当 する役務を提供したにもかかわらず,その対価としては割引後基本使 用料金の支払しか受けていないこととなり,しかも,被告が継続して 安定した収入を得られるという前提も存在しなくなったのであるか ら,この期間の標準基本使用料金と割引後基本使用料金との差額につ いては,被告に生じた損害ということができる。
- エ そうすると,本件契約の更新前の中途解約による「平均的な損害」は, 上記ウ(ア)の2160円に(イ)の14か月を乗じた3万0240円である と認められ,本件当初解約金条項に基づく支払義務の金額である9975 円はこれを下回るものであるから,本件当初解約金条項が法9条1号に該 当するということはできない。
- (6) 以上のとおりの各事実を踏まえれば,消費者は本件当初解約金条項に基 づき解約権の制限を受けるものの,そのことに見合った対価を受けており, 制限の内容についても何ら不合理なものではなく,しかも,被告と消費者と の間には,本件当初解約金条項に関して存在する情報の質及び量並びに交渉 力の格差が存在するということはできないといえるから,本件当初解約金条 項は,法10条後段には該当しないと解するのが相当である。
- そうすると,被告は,消費者に対し,本件更新後解約金条項についてその 性質を明確に説明しており,被告と消費者との間には,このような説明を踏 まえた上で,本件更新後解約金条項に基づく明確な合意が成立している上に, 被告は,消費者に対し,本件契約を締結した後も,消費者が本件更新後解約 金条項に基づき被告に対して負う義務の存在について適切に注意を促してい るというべきである。 (5) 以上のとおりの各事実を踏まえれば,消費者は,本件契約が更新された 後に解約金の支払義務を負うとされ…