市営住宅の使用料滞納による契約解除後、条例に基づく「近傍同種家賃の2倍」の損害賠償金徴収を有効と認めた事例
市営住宅の使用料(家賃)を滞納して契約解除・明渡請求を受けた入居者および連帯保証人に対し、自治体(北九州市)が北九州市営住宅条例40条4項に基づき、明渡請求翌日から強制執行による明渡日まで「近傍同種の住宅の家賃の額(月額4万2200円)の2倍(月額8万4400円)」に相当する損害賠償金62万4014円と滞納使用料21万6080円の合計84万0094円を請求した控訴事件です。福岡高等裁判所は、公営住宅法32条4項・47条は使用料滞納者に対する明渡請求後の損害賠償額の予定を条例で定めることを各地方公共団体の判断に委ね…
公営住宅の敷金・退去費用ハブで比較表を見る(公営住宅条例・明渡遅延損害金)
基本情報
- 判決結果
- 控訴人勝訴(原判決変更・請求全額認容)
- カテゴリ
- 不動産トラブル
- 裁判所
- 福岡高等裁判所第1民事部
- 判決日
- 2004-07-21
裁判所・判決日: 福岡高等裁判所第1民事部 / 2004-07-21
判決結果: 控訴人勝訴(原判決変更・請求全額認容)
カテゴリ: 不動産トラブル
主な争点
- 公営住宅条例に基づく退去・明渡遅延損害金(近傍同種家賃の2倍)の有効性 - 使用料滞納により明渡請求を受けた入居者に対し、明渡日まで近傍同種の住宅の家賃の2倍に相当する損害賠償金を徴収する北九州市営住宅条例40条4項が、公営住宅法47条の委任範囲を逸脱し無効となるか否か。
- 公営住宅法および自治体条例による修繕義務の範囲と効力 - 民法上の賃貸人の修繕義務に関する規定に対し、公営住宅法や自治体の条例で定められた修繕費用の分担(入居者負担の規定)がどこまで優先されるか。
裁判所の判断ロジック
- 公営住宅法47条による条例への委任範囲: 公営住宅法は不正入居以外の理由(使用料滞納等)で明渡請求を受けた場合の損害賠償を制限しておらず、条例で損害賠償額の予定を設けるか否か及びその額を各地方公共団体の判断に委ねている。
- 近傍同種家賃の2倍とする損害賠償額の合理性: 入居希望者が極めて多く応募倍率が増加している状況下で、明渡請求を受けた者を速やかに退去させ住宅困窮者を入居させるため、利用対価相当額に機会費用を加えた近傍同種家賃の2倍を損害賠償金と定めることには合理性がある。
- 入居時の条例承認と損害賠償額の予定(民法420条): 入居者及び連帯保証人は賃貸借契約時に条例の規定の適用(明渡請求後は近傍同種家賃の2倍相当額を賠償すること)を承認しており、公序良俗に反するほど高額でもないため全額の支払義務を負う。
時系列
- 2001/11/08 - 市営住宅の使用許可・賃貸借契約と連帯保証
北九州市が被控訴人Aに市営住宅を賃貸(当初使用料月1万1300円、後に1万4100円)し、被控訴人Bが連帯保証した。
- 2003/09/08 - 使用料滞納による契約解除・明渡請求通知
使用料計22万4800円の滞納を受け、市が納入指定期限付で解除・明渡請求通知を発出し同月10日到達、同月24日経過により解除。
- 2004/05/06 - 仮執行宣言付原判決に基づく強制執行で明渡し
第一審判決(明渡しと滞納使用料は認容、2倍損害金は一部棄却)の後、強制執行により市営住宅を明け渡した。
- 2004/07/21 - 福岡高等裁判所判決(原判決変更・市の請求全額認容)
北九州市営住宅条例40条4項を有効と認め、滞納使用料21万6080円と2倍相当損害賠償金62万4014円の合計84万0094円の連帯支払いを命じた。
実務上の学び
- 公営住宅では条例に基づく退去・明渡遅延損害金がそのまま認められる: 市営・公営住宅の使用関係は公営住宅法および自治体条例によって規律されるため、滞納による契約解除後の明渡しが遅れると、本来の低廉な使用料(本件では月1万4100円)ではなく「近傍同種家賃(月4万2200円)の2倍(月8万4400円)」という高額な損害賠償金が請求されます。
- 連帯保証人にも滞納使用料と2倍相当損害賠償金の全額連帯責任が及ぶ: 入居者が退去せず強制執行に至った場合、明渡日までの近傍同種家賃2倍相当の損害賠償金(本件では約7か月半で62万4014円)について連帯保証人も連帯支払義務を負います。
- 民間賃貸の消費者契約法ルールとは異なる公営住宅法の枠組み: 公営住宅では「住宅困窮者への低廉な賃貸と速やかな明渡し促進」という公営住宅法1条・32条・47条の趣旨から、条例で定められた費用・損害金規定の合理性が広く認められます。
よくある質問
本件控訴審における争点は何ですか?
当審における争点は,控訴人が,被控訴人らに対し,本件条例40条4 項に基づいて算出された損害賠償金を請求できるか否かであるところ,そ の前提として,同条例が法に違反し無効なものであるか否かである。
北九州市営住宅条例40条1項2号および4項には、どのような規定が置かれていますか?
(10) 本件条例は,控訴人は,入居者に対して,入居者が使用料を3月以上 滞納したときは,当該公営住宅の明渡しを請求できるものとし(40条1 項2号),同号の規定に該当することにより同項の請求を行ったときは, 当該請求を受けた者に対して,請求の日の翌日から当該公営住宅の明渡し を行う日までの期間について,毎月,近傍同種の住宅の家賃の額の2倍に 相当する額の金銭を損害賠償金として徴収することができる(同条4項) と定めている(甲3)。
不正入居以外の理由により明渡請求を受けた場合の損害賠償について、裁判所はなぜ条例で定めることができると判断しましたか?
(ウ) 一方,不正入居以外の理由により明渡しの請求を受けた場合の損 害賠償を明確に制限した条項はなく, (エ) そもそも,当事者は債務の不履行に付き損害賠償の額を予定する ことができるのであるから(民法420条1項), 不正入居以外の理由により明渡しの請求を受けた者に対し,損害賠償請 求をするか否か,するとしてその額をいくらにするかについては,各地 方公共団体の事情に応じて,条例に設けるか否か自体を,その判断に委 ねたものと解されるからである。
使用料滞納者に対して近傍同種の住宅の家賃の2倍に相当する損害賠償金を定めた本件条例40条4項について、裁判所はどのように評価しましたか?
b しかも,(ア)dのとおり,明渡期限後の損害賠償金の額の趣旨 は,明渡しの促進を図るというものであり,使用料滞納者を不正入 居者と必ずしも別異に扱う必要はなく,各地方公共団体の事情に応 じて定めることができるというべきである。 c このことは,平成8年10月14日(旧)建設省住総発第153 号「公営住宅管理標準条例(案)について」(甲10)と題する住 宅局長から各都道府県知事あて通知によっても,明らかにされてい る。 d そして,その損害賠償金の額は,不正入居者の場合の損害賠償金 の額の上限を上回るものではないのであるから,公序良俗に反する ほど高額であると認められるものではない。 (ウ) したがって,本件条例40条4項は,法の委任の範囲を逸脱した 違法な規定であるとは解されない。
最終的に被控訴人らが連帯して支払う義務があると認められた金額の内訳と合計額はいくらですか?
(2) 被控訴人らは,控訴人に対し,連帯して, ア 明渡しの請求を受けた日の翌日である平成15年9月25日から明渡 しを行った日である同16年5月6日まで,1か月8万4400円の割 合による金員62万4014円(計算は,第2の3(2)ア(イ)bのとお り。), イ 滞納使用料である21万6080円(第2の2(9)参照) の合計84万0094円を支払う義務がある。
関連する論点
- 市営・公営住宅の敷金返還と退去費用の判断ライン
市営住宅・公営住宅の退去時に畳表替・ふすま張替や明渡遅延損害金が請求され敷金が返還されない問題について、名古屋簡裁(7577・7686)、福岡高裁(4132)、東京簡裁(8952)の判決原文を照合し、条例の定め・請書・退去時調書と民間賃貸(国交省ガイドライン・消費者契約法)の違いを比較表で整理します。
結論が分かれる判例
- 契約書別表の「修理費の負担範囲」と通常損耗負担の明確な合意を巡り、敷金返還を認めた事例
反対結論(原告一部勝訴)。公営住宅条例の損害賠償規定を有効とした本件に対し、民間賃貸では契約書別表の負担表による通常損耗控除を否定し敷金返還を命じた。
- 畳や襖の「自然損耗負担条項」を消費者契約法10条で無効とし、退去立会署名も合意否定して敷金全額返還を認めた事例
反対結論(原告勝訴)。民間賃貸では説明のない自然損耗負担条項を消費者契約法10条により無効とし、敷金13万6000円全額の返還を命じた。
判決文抜粋
- 1 原判決主文第2,3項を次のとおり変更する。 2 被控訴人らは,控訴人に対し,連帯して84万0094円を支払え。 3 訴訟費用は,第1,2審を通じて,全部被控訴人らの負担とする。
- オ そ の 他 本件賃貸借契約が解除され,明渡しの請求があった場合 は,明渡しの請求のあった日の翌日から明渡しの日までの 近傍同種の住宅の家賃(法施行令3条)の2倍に相当する 額の損害を賠償しなければならない。 その他の本件条例及び同施行規則並びにこれに基づく指 示を遵守すること。
- (10) 本件条例は,控訴人は,入居者に対して,入居者が使用料を3月以上 滞納したときは,当該公営住宅の明渡しを請求できるものとし(40条1 項2号),同号の規定に該当することにより同項の請求を行ったときは, 当該請求を受けた者に対して,請求の日の翌日から当該公営住宅の明渡し を行う日までの期間について,毎月,近傍同種の住宅の家賃の額の2倍に 相当する額の金銭を損害賠償金として徴収することができる(同条4項) と定めている(甲3)。
- 1 当裁判所は,本件条例40条4項が,法47条による条例への委任の範囲 を逸脱した違法な規定であるとは解されないと判断するもので,控訴人の請 求は全部認容するのを相当と判断する。その理由は,以下のとおりである。
- 不正入居以外の理由により明渡しの請求を受けた者に対し,損害賠償請 求をするか否か,するとしてその額をいくらにするかについては,各地 方公共団体の事情に応じて,条例に設けるか否か自体を,その判断に委 ねたものと解されるからである。
- b しかも,(ア)dのとおり,明渡期限後の損害賠償金の額の趣旨 は,明渡しの促進を図るというものであり,使用料滞納者を不正入 居者と必ずしも別異に扱う必要はなく,各地方公共団体の事情に応 じて定めることができるというべきである。 c このことは,平成8年10月14日(旧)建設省住総発第153 号「公営住宅管理標準条例(案)について」(甲10)と題する住 宅局長から各都道府県知事あて通知によっても,明らかにされてい る。 d そして,その損害賠償金の額は,不正入居者の場合の損…