契約書別表の「修理費の負担範囲」と通常損耗負担の明確な合意を巡り、敷金返還を認めた事例
賃貸物件の退去時に、契約書の「修理費実費償却」および別表「入居者の日常使用及退去による修理費の負担範囲」を根拠としてリフォーム費用52万7572円を請求された元借主が、敷金残額の返還を求めた敷金返還請求訴訟です。名古屋簡易裁判所は、別表の記載は日常使用中の修繕義務を例示したものにすぎず、敷金50%償却の定めがあることや入居時の仲介業者の説明も踏まえれば、通常損耗・経年減価分まで借主が別途負担する明確な合意は認められないと判断し、借主負担を破損箇所および室内清掃費の計4万0950円に限定して19万4050円の敷金返…
基本情報
- 判決結果
- 原告一部勝訴
- カテゴリ
- 不動産トラブル
- 裁判所
- 名古屋簡易裁判所
- 判決日
- 2002-12-17
裁判所・判決日: 名古屋簡易裁判所 / 2002-12-17
判決結果: 原告一部勝訴
カテゴリ: 不動産トラブル
主な争点
- 通常損耗と賃借人責任の区別 - 賃貸借契約終了時において、建物の損耗が通常損耗であるか、賃借人の責に帰すべきものであるかの区別が争点となった
- 原状回復特約の有効性 - 賃貸借契約に付された原状回復の特約が消費者契約法に違反するか否か
- 敷金と修繕費用の充当 - 賃貸人が敷金を返還せず、修繕費用を充当することの正当性が争点となった
- 原状回復義務の範囲 - 借主の原状回復義務の程度と敷金からの控除適否が争点。
裁判所の判断ロジック
- 通常損耗の原則負担者: 賃借期間中の年月の経過による減価分や通常の利用による価値の低下分は賃貸借本来の対価に含まれ、特約がない限り賃借人に負担させることはできない。
- 契約書別表・修理費負担表の解釈: 契約書13条2項が引用する別表第1表は、入居中の日常使用で修理を要する場合の負担基準を退去時にも例示的に掲げたものにすぎず、入居中に修理不要な項目について退去時に突然修理義務を発生させる特約とはいえない。
- 敷金50%償却と説明状況による明確な合意の否定: 敷金50%償却の差し引きがあることや、50%償却の中に退去時リフォーム費用も含まれていると仲介業者から説明を受けていたことから、通常損耗の原状回復費用を別途負担する明確な合意の存在は認められない。
時系列
- 1994/08/01 - 賃貸借契約の締結・敷金47万円の差入れ
原告が被告から本件貸室を期間2年、賃料月額11万0240円、敷金47万円(50%償却・修理費実費償却の記載あり)で賃借した。
- 2002/05頃 - 本件貸室の明渡しと確認
約7年10か月の居住を経て本件貸室を明け渡し、貸主の確認を受けた。貸主はリフォーム工事費52万7572円を主張し敷金返還を拒否した。
- 2002/06/28 - 敷金返還期限(明渡確認から30日経過)
契約書8条5項に基づく確認日から30日経過後の遅延損害金起算日。
- 2002/12/17 - 名古屋簡易裁判所判決(原告一部勝訴)
通常損耗負担の明確な合意を否定し、50%償却後の敷金23万5000円から破損・清掃費4万0950円のみを差し引いた19万4050円の返還を命じた。
実務上の学び
- 契約書別表の「修理費負担範囲表」だけでは通常損耗特約と認められない場合がある: 契約書に「修理費実費償却」や別表の負担範囲表が付いていても、それが故意・過失による汚損破損の例示にとどまるのか、通常損耗まで借主に負担させる明確な特約なのかが厳格に解釈されます。
- 敷金償却(50%償却)条項と通常損耗二重取りの制限: 敷金の一定割合(本件では50%)を償却する約定がある上に、さらに通常損耗のリフォーム実費を重ねて請求するには、別途負担することの明確な説明と合意が必要とされます。
- 破損箇所・清掃費と全面リフォーム費用の切り分け: 通常損耗特約が否定された場合でも、キッチン上棚取手の破損(1000円)、排水エルボーの欠損(3000円)、室内清掃費(3万5000円)など個別に認められた項目のみが敷金から控除されます。
よくある質問
本件における中心的争点は何ですか?
被告は,本件契約の契約書には,保証金(敷金)50パーセント償却のほか修理費 実費償却の定めがあり,本件契約書13条2項で原告の負担とされているリフォー ム工事の費用は,52万7572円となるので,被告が原告に返還すべき敷金の残 額はないと主張して争うのでこの点が中心的争点である。
特約のない場合における原状回復の限度について、裁判所はどのように判示していますか?
特約のない場合の原状回復の限度としては,・賃借人が付加した造作の収去,・賃 借人が通常の使用の限度を超える方法により賃借物の価値を減耗させたときの復旧 費用については,賃借人が負担する必要があるが,・賃借期間中の年月の経過によ る減価分,・賃貸借契約で予定している通常の利用による価値の低下分は,賃貸借 の本来の対価というべきものであって,その減価を賃借人に負担させることはでき ないものと考えられる。
本件契約書13条2項および別表・第1表の性質について、裁判所はどのように解釈しましたか?
本件契約書13条2項は, 「その他乙の故意,過失による汚損,破損,若しくは滅失の箇所の補修」等を賃借 人の原状回復義務のある範囲として定め,その前半の「別表・第1表に掲げる修 繕」は例示的に掲げられているに過ぎないものと解される。敷金の償却費として5 0パーセントの差し引き があることも併せ考えると,本件契約書13条2項の規定は,契約終了時の賃借人 の一般的な原状回復義務(前記・,・の内容)を規定したものと解され,前記特約 にあたる条項と考えることはできない。
通常の使用による減耗・汚損等の原状回復費用を別途負担する合意の有無について、裁判所はどう判断しましたか?
賃貸人としては,賃借人の退去に際し,通常の使用による減耗,汚損等も賃借人の 負担で改修したいのであれば,契約条項で明確に特約を定めて,賃借人の同意を得 た上で契約すべきものであるが,本件の原告は,入居の際の仲介業者の説明とし て,50パーセントの償却の中に退去の際のリフォーム費用も含まれていると聞い ていたとしており,通常の使用による減耗,汚損等の原状回復費用も別途負担する ことについての明確な合意の存在も認められない。
原告が負担すべきと認められた原状回復費用の項目と金額はいくらですか?
前述したところから,本件貸室の原状回復費用のうち,原告が負担するべき項目 は,キッチン上棚取手取付費1000円(破損),排水エルボー費3000円(欠 損)及び室内清掃費3万5000円の合計金3万9000円と消費税1950円の 総合計金4万0950円であることが認められる(甲2,原告本人)。
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結論が分かれる判例
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判決文抜粋
- 1被告は,原告に対し,金19万4050円及びこれに対する平成14年6月28 日から支払済みまで年5パーセントの割合による金員を支払え。 2原告のその余の請求を棄却する。
- 被告は,本件契約の契約書には,保証金(敷金)50パーセント償却のほか修理費 実費償却の定めがあり,本件契約書13条2項で原告の負担とされているリフォー ム工事の費用は,52万7572円となるので,被告が原告に返還すべき敷金の残 額はないと主張して争うのでこの点が中心的争点である。
- 特約のない場合の原状回復の限度としては,・賃借人が付加した造作の収去,・賃 借人が通常の使用の限度を超える方法により賃借物の価値を減耗させたときの復旧 費用については,賃借人が負担する必要があるが,・賃借期間中の年月の経過によ る減価分,・賃貸借契約で予定している通常の利用による価値の低下分は,賃貸借 の本来の対価というべきものであって,その減価を賃借人に負担させることはでき ないものと考えられる。
- 本件契約書13条2項の引用する別表・第1表の内容としては,その表題の示すと おり,入居者の入居中における日常使用にあたって,修理を必要とする場合の費用 の負担者を賃貸人でなく賃借人であると規定し,この基準を退去時にも引用してそ の義務の内容としているものであると解される。したがって,入居中に賃借人が修 理をする必要のないような項目について,退去するにあたって突然賃借人に修理の 義務が発生するという内容であるとまではいえない。本件契約書13条2項は, 「その他乙の故意,過失に…
- 賃貸人としては,賃借人の退去に際し,通常の使用による減耗,汚損等も賃借人の 負担で改修したいのであれば,契約条項で明確に特約を定めて,賃借人の同意を得 た上で契約すべきものであるが,本件の原告は,入居の際の仲介業者の説明とし て,50パーセントの償却の中に退去の際のリフォーム費用も含まれていると聞い ていたとしており,通常の使用による減耗,汚損等の原状回復費用も別途負担する ことについての明確な合意の存在も認められない。
- 前述したところから,本件貸室の原状回復費用のうち,原告が負担するべき項目 は,キッチン上棚取手取付費1000円(破損),排水エルボー費3000円(欠 損)及び室内清掃費3万5000円の合計金3万9000円と消費税1950円の 総合計金4万0950円であることが認められる(甲2,原告本人)。