大学教授らが国会議員のSNS投稿を訴えた裁判で、一部の名誉感情侵害を認め賠償を命令

大学教授らが、国会議員のSNSやインターネット番組での発言により名誉を傷つけられたとして提訴した事案です。一審の請求棄却に対し、控訴審では一部の投稿について原告1名への名誉感情の侵害を認め、賠償金の支払いを命じました。

基本情報

判決結果
原告一部勝訴
カテゴリ
SNS・ネット
裁判所
大阪高等裁判所 第2民事部
判決日
2023-05-30

裁判所・判決日: 大阪高等裁判所 第2民事部 / 2023-05-30

判決結果: 原告一部勝訴

カテゴリ: SNS・ネット

主な争点

  • 名誉毀損(社会的評価の低下)の成否 - 被控訴人(国会議員)によるツイッター等での発言が、大学教授等である控訴人らの社会的評価を低下させ、名誉毀損に該当するか否か。
  • 名誉感情の侵害(侮辱)の成否 - 被控訴人の発言が、社会的評価を低下させる程度に至らないとしても、控訴人らの名誉感情(主観的なプライド)を著しく害し、社会通念上許容される限度を超えているか否か。
  • 名誉回復措置(投稿削除・謝罪文掲載)の妥当性 - 民法723条に基づき、金銭賠償以外に、問題となったツイートの削除や謝罪文の固定掲載といった措置が認められるべきか否か。

裁判所の判断ロジック

  • 名誉感情の受忍限度: SNS上の投稿が、単なる意見や批判の域を超えて、特定の個人の人格を否定するような侮辱的な表現を含み、社会通念上許容される限度を超えた場合には、名誉感情の侵害として不法行為が成立すると判断されました。
  • 公共性と攻撃の区別: 公金(科研費)の使途に関する議論という公共性がある内容であっても、具体的な研究者個人を揶揄し、攻撃することを主眼とするような表現は、正当な批判の範囲を逸脱するものとみなされました。
  • 社会的評価の低下認定: 発信者の影響力や投稿の拡散性を踏まえ、一般の閲覧者の普通の注意力を基準とした際に、対象者の社会的評価を低下させると客観的に認められる場合には、名誉毀損による賠償責任が生じるとされました。

時系列

  1. 2013/10 - 科学研究費助成事業への応募

    大学教授らである控訴人らが、フェミニズムやジェンダー的正義の理論に関する研究計画を立て、国の科学研究費助成事業(科研費)に応募した。

  2. 2018/03/01 - SNSやインターネット番組での発信開始

    国会議員である被控訴人が、ツイッターやインターネットテレビ等の媒体において、控訴人らの研究内容や公的資金(科研費)の使途を疑問視する投稿・発言を開始した。

  3. 2018/07/18 - 一連の投稿の終止点(不法行為の基準日)

    被控訴人による一連の発言等のうち、後の訴訟において不法行為の終点(遅延損害金の起算日)として認定される最後の日。

  4. 2022/01/01 - 第1審判決(請求棄却)

    控訴人らが名誉毀損などを理由に損害賠償を求めた訴訟に対し、第1審(地方裁判所)は控訴人らの請求をすべて棄却した。これを不服として控訴人らが控訴。

  5. 2023/05/30 - 大阪高等裁判所による判決(一部認容)

    控訴審において、被控訴人の発言が控訴人A1に対する名誉毀損や名誉感情の侵害にあたると判断。第1審判決を変更し、被控訴人に対し33万円の支払いを命じた。

実務上の学び

  • SNS発信における名誉侵害の責任: インターネット上での発信であっても、他者の名誉を毀損し、または社会通念上許容される限度を超えて名誉感情を害した場合には、不法行為に基づく損害賠償責任が発生する。公的な活動に対する批判であっても、その表現方法や態様によっては法的責任を免れない可能性がある。
  • 被害者ごとの個別的な侵害認定: 特定のグループや共同研究に対する批判であっても、裁判所は各個人に対する権利侵害の有無を個別に判断する。発言の具体的な内容が特定の個人を対象としているか、その個人の社会的評価を低下させるものであるかによって、賠償の可否に関する結論が分かれる場合がある。
  • 名誉回復のための請求の限定性: 不法行為による金銭的な損害賠償が認められた場合であっても、投稿の削除や謝罪文の掲載といった名誉回復措置が当然に認められるわけではない。これらの請求には損害賠償請求とは異なる厳格な要件が必要とされ、裁判所によって棄却される事例も存在する。

よくある質問

この事件の控訴審における、控訴人A1に対する判決の主文はどのような内容ですか?

被控訴人は、控訴人A1に対し、33万円及びこれに対する平成30年7月18日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。控訴人A1のその余の請求をいずれも棄却する。

本件において控訴人らが損害賠償請求および名誉回復請求を行うために適用を主張した法律は何ですか?

民法709条に基づく損害賠償請求として、それぞれ慰謝料及び弁護士費用相当額...の支払を求めるとともに、民法723条に基づく名誉回復請求としてツイッターにおける投稿の削除及び謝罪文の掲載を求める

控訴人らが控訴する以前の、原審(第一審)の判断はどのようなものでしたか?

原審は、控訴人らの請求をいずれも棄却した。

名誉を毀損され又は名誉感情を害されたとされる「発言等」は、どのような媒体で行われたものですか?

SNSであるツイッターやインターネットテレビ等の各種媒体においてした投稿や発言など

前提事実の補正において、科研費の新規応募に対する採択率はどの程度であったとされていますか?

新規応募に対する採択率は28%程度となっていた

関連する論点

判決文抜粋

  • 控訴人A1の本件控訴に基づき、原判決中同人に関する部分を次のとおり変更する。被控訴人は、控訴人A1に対し、33万円及びこれに対する遅延損害金を支払え。控訴人A1のその余の請求、及びその余の控訴人らの本件各控訴をいずれも棄却する。
  • 大学教授等である控訴人らが、国会議員である被控訴人に対し、SNSやインターネットテレビ等における発言により名誉を毀損され又は名誉感情を害されたと主張して、損害賠償、ツイートの削除、および謝罪文の掲載を求めた事案である。
  • 控訴人らは、平成25年に「フェミニズム的平等論とより包摂的なメンバーシップ論の精緻化」等の研究課題で科学研究費助成事業(科研費)に応募し、採択された。本研究は、ジェンダー研究と女性運動の連携をネット活用で構築することを目的としていた。
  • 控訴人らは、研究成果のまとめとして書籍「架橋するフェミニズム-歴史・性・暴力」を刊行した。同書には慰安婦問題、性と暴力の問題、それに取り組む女性たちの運動についての考察や、修復的プロセスの失敗例としての見解などが掲載されていた。
  • 被控訴人は、国会の予算委員会分科会において、科研費が「反日のプロパガンダ」に使われているのではないかとの観点から質疑を行った。また、自身のツイッター等で「慰安婦=性奴隷というのは嘘である」といった自身の見解を繰り返し表明していた。
  • 被控訴人の「科研費を活動家支援に不正流用している」等の発言が、事実の摘示として控訴人らの社会的評価を低下させたか、あるいは控訴人らを侮辱して名誉感情を害する不法行為に当たるかが争点となった。

判決文PDF(出典)