特許権者のX氏らが金物の侵害を訴えるも、発明に新規性がないとして敗訴した事例
特許権を持つ個人および企業が、競合他社の製品が特許を侵害していると主張し、製造販売の停止と損害賠償を求めた事案です。裁判所は、問題となった特許が公知の技術と同一であり無効理由を有すると認定し、権利行使を認めませんでした。
基本情報
- 判決結果
- 原告敗訴
- カテゴリ
- 著作権・AI
- 裁判所
- 知的財産高等裁判所
- 判決日
- 2025-09-25
裁判所・判決日: 知的財産高等裁判所 / 2025-09-25
判決結果: 原告敗訴
カテゴリ: 著作権・AI
主な争点
- 本件発明の新規性および有効性(特許法104条の3の抗弁) - 本件発明が、先行技術である甲5発明(意匠登録公報)と実質的に同一の構成を有し、新規性欠如の無効理由が存在するか否か。
- 訂正請求の成否および訂正後の発明に基づく請求の可否 - 無効審判においてなされた訂正請求が認められるか、また、その訂正が確定していない段階で訂正後の発明に基づいて差止めや損害賠償を請求できるか。
- 被告各製品の技術的範囲への属否 - 被告が製造・販売する締結金物が、本件発明(または訂正後の発明)の技術的範囲に属するか否か。
裁判所の判断ロジック
- 特許権行使の制限: 特許が無効とされるべき明らかな理由がある場合、その特許権に基づいて差し止めや損害賠償を請求することは権利の濫用として認められません。これは、不当な独占から公正な競争を守るための確立された法理です。
- 公知技術との同一性: 本件の発明は、出願前に公開されていた他の技術(意匠登録公報に記載された発明)と実質的に同じ構成であると判断されました。誰でも知り得た既存の技術に対しては、特許による独占権は認められないという「新規性」の原則が適用されています。
- 訂正請求の未確定: 特許の内容を修正(訂正)して無効を回避しようとする手続き中であっても、その訂正が法的に確定していない段階では、修正後の内容を前提とした権利の行使は認められないとする慎重な判断が示されました。
時系列
- 2020/07/01 - 損害賠償対象期間の開始
原告(控訴人)らが、被告製品の製造・販売による特許権侵害があったとして損害賠償を請求した期間の始点です。
- 2023/08/29 - 第一審(東京地方裁判所)への提訴
特許権侵害を理由に、原告らが被告製品の製造・販売の差し止めや廃棄、損害賠償を求めて訴えを提起しました。
- 2023/12/15 - 特許無効審判の請求
被告(被控訴人)が特許庁に対し、本件特許に新規性や進歩性がないとして無効審判を請求しました。
- 2024/03/22 - 第1回訂正請求の申立て
特許権者である原告Xが、無効の理由を回避するために特許請求の範囲(クレーム)を訂正する手続きを行いました。
- 2025/03/27 - 特許庁による審決の予告
特許庁が、一部の請求項について無効とする判断の見通しを通知しました。第一審の判決言渡し後に出されたものです。
- 2025/05/30 - 第2回訂正請求(本件訂正)の申立て
審決の予告を受けた原告Xが、さらに特許の内容を訂正する「訂正請求②」を行い、権利の維持を図りました。
- 2025/09/25 - 控訴審(知財高裁)での判決言渡し
裁判所は原告らの控訴を棄却しました。一審と同様、特許の無効理由などを理由に原告側の主張は認められませんでした。
実務上の学び
- 特許権行使における新規性の要件: 特許が有効に登録されている場合であっても、その発明が公に知られている技術(先行技術)と実質的に同一であると判断される「新規性欠如」の無効理由があるときは、特許権の行使が制限される。
- 特許無効の抗弁による請求棄却の仕組み: 特許権侵害訴訟において、被告側から特許が無効とされるべき旨の抗弁がなされ、裁判所によってその無効理由が正当であると認められた場合、差止めや損害賠償の請求は認められない。
- 訴訟進行中の訂正請求と権利の有効性: 特許無効の指摘を回避するために特許請求の範囲を訂正する手続を行っても、訂正後の発明が依然として先行技術との明確な差異を有しないと判断される場合、権利行使の制限は解消されない。
- 先行技術調査における意匠登録公報の重要性: 特許の新規性や進歩性を判断するための比較対象には、過去の特許公報だけでなく、意匠登録公報に記載された構造や形状に関する情報も含まれる。
よくある質問
本件判決の主文の内容はどのようなものですか。
1 控訴人らの本件控訴をいずれも棄却する。 2 控訴費用は控訴人らの負担とする。
本件特許の特許番号と発明の名称を教えてください。
本件特許 :原告Xを特許権者とする特許第5634732号(発明の名称 締結金物)
原審が原告らの請求を棄却した理由は何ですか。
原審が、本件発明は甲5発明と実質的に同じ構成を備えているから、新規性欠如の無効理由を有し、原告らは本件発明に係る本件特許権を行使することができず、訂正請求は未だ確定していないから、訂正後の発明に係る請求はその前提を欠くとして、原告らの請求をいずれも棄却した
控訴人らが求めた控訴の趣旨について、金銭的請求の内容を教えてください。
被告は、原告会社に対し、456万6400円及びこれに対する令和5年8月30日(訴状送達日の翌日)から支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。
本件特許に関する無効審判事件(無効2023-800081号)において、特許庁が行った審決の予告の内容はどのようなものですか。
その内容は、前記イの訂正請求を認め、本件特許の請求項1、4及び5に係る発明についての特許を無効とする、本件特許の請求項2、3及び6に係る発明についての本件審判請求は成り立たないとするものであった(乙11)。
判決文抜粋
- 1 控訴人ら(原告ら)の本件控訴をいずれも棄却する。2 控訴費用は控訴人らの負担とする。
- 本件は、原告らが被告に対し、被告製品が特許(締結金物)を侵害しているとして、製造・販売の差止めや損害賠償を求めた事案である。第1審(東京地裁)が、本件特許は公知の「甲5発明」と実質的に同じ構成であり、新規性欠如により無効とされるべきものであるとして、原告らの請求を棄却したため、原告らが控訴した。
- 被告による無効審判請求に対し、原告(特許権者)は、特許請求の範囲を減縮し、「破壊を遅くさせ、且つ短期許容耐力を向上させる」といった要件を追加する訂正請求を行い、これによって公知技術との差異を明確にしようと試みた。
- 本件発明は、従来の一般的な締結金物と比べて「破壊の遅延」という技術思想を有しており、実験データによって短期許容耐力の向上も証明されている。したがって、これらが開示されていない甲5発明に対し、新規性及び進歩性を確保していると主張した。
- 当裁判所も、本件発明は甲5発明に基づき新規性を欠くものであり、原告らの訂正の対抗主張(効果の追記等)も認められないと判断した。仮に訂正が認められたとしても、甲5発明と同一であることに変わりはない。
- 本件特許は新規性欠如の無効事由を有するものであり、特許権を行使することはできない。したがって、原告らの請求を棄却した原判決は相当であり、本件控訴を棄却する。