強盗殺人等で死刑判決を受けた男性が、テレビ番組制作陣に著作権侵害等を訴えた事件
死刑判決を受けた原告が、テレビ番組「ザ・スクープ」等の制作・放送によって自身の著書や顔写真を無断で使用され、著作権やプライバシー権を侵害されたと主張した事案です。裁判所は原告の請求を全面的に退ける判決を下しました。
基本情報
- 判決結果
- 原告敗訴
- カテゴリ
- SNS・ネット
- 裁判所
- 東京地方裁判所
- 判決日
- 2005-08-25
裁判所・判決日: 東京地方裁判所 / 2005-08-25
判決結果: 原告敗訴
カテゴリ: SNS・ネット
主な争点
- 肖像権およびプライバシー権侵害の成否 - 刑事事件の被告人(死刑判決を受けた者)の顔写真や生い立ち等の情報を、本人の許諾なくテレビ番組や書籍で使用したことが、違法な権利侵害に当たるか。
- 著作権侵害の成否 - 原告が執筆した書籍(小冊子)の内容や、原告が作成した手紙を番組や書籍内で引用・紹介した行為が、複製権等の著作権侵害を構成するか。
- 確認の訴えの適法性 - 過去の不法行為の存否や、包括的な請求権の存在について、確認判決を求めることが訴訟法上の「確認の利益」を充足し適法と言えるか。
- 差止請求および損害賠償請求の成否 - 一連の報道・出版行為による権利侵害を理由として、関連データの使用差止め、廃棄、および精神的苦痛に対する損害賠償が認められるか。
裁判所の判断ロジック
- 訴えの適法性について: 過去の違法行為の確認や、一般的な権利の存在確認を求める訴えは、法的な紛争の直接的な解決になじまないため、不適法として却下されました。
- 報道の公共性の重視: 重大な刑事事件の経緯や、死刑判決を受けた者の生い立ち、無実を訴える支援者の活動を報じることは、社会の公共の利益に資するものと判断されました。
- 権利侵害の否定理由: 公表済みの自著や、支援者から提供された情報を基にした放送・出版は、正当な取材活動の範囲内であり、プライバシー等の不当な侵害には当たらないとされました。
時系列
- 1980/03/21 - 埼玉県宮代町での強盗殺人・放火事件が発生
本件訴訟の原告が被告人とされた、強盗殺人および放火事件が発生しました。
- 1985/09 - 第一審での死刑判決
浦和地方裁判所が、刑事事件の被告人である原告に対し死刑判決を言い渡しました。原告はこれを不服として控訴しました。
- 1991/03/30 - 原告による小冊子の発行
原告が執筆した、事件に関する独自の主張をまとめた小冊子「タイム・リミット魔の時間帯-その1-」が発行されました。
- 1992/07/29 - 控訴審での控訴棄却判決
東京高等裁判所が原告の控訴を棄却しました。原告は同日、最高裁判所へ上告しました。
- 1992/09/05 - テレビ番組「ザ・スクープ」の放送
被告らが制作に関与した番組が放送されました。番組内で原告の著作物や顔写真、手紙などが引用・使用されました。
- 2004/10 - 損害賠償等を求める訴訟を提起
原告が、テレビ番組や関連書籍での著作物・写真の使用は著作権や肖像権の侵害であるとして、制作関係者(被告ら)を提訴しました。
- 2005/07/21 - 口頭弁論の終結と判決
裁判所は、原告による権利侵害の訴えについて、一部の訴えを不適法として却下し、その余の請求を棄却しました。
実務上の学び
- 刑事事件報道におけるプライバシー権と公共性の関係: 重大な刑事事件に関与し、第一審で死刑判決を受けた人物の生い立ちや経歴を報道することは、事件の背景を説明する上で公共の利害に関する事項とみなされる傾向があります。このような場合、肖像権やプライバシー権の侵害が直ちには認められないことがあります。
- 著作物の正当な範囲内での引用と利用: 公表された著作物や、報道機関に送付された資料の一部を報道目的で使用する場合、その利用が公正な慣行に合致し、報道の目的上正当な範囲内であれば、著作権侵害を構成しないと判断される事例が存在します。
- 損害賠償請求権における時効と除斥期間の適用: 不法行為に基づく損害賠償請求は、損害及び加害者を知った時から3年、または不法行為の時から20年を経過すると、法律上の権利が消滅します。本事例のように、放送や出版から長期間経過した後の提訴は、内容の当否以前に法的期限の問題が生じ得ます。
- 確認の訴えにおける法的利益の必要性: 裁判所に対し「過去に違法な行為が行われたこと」の確認を求める訴えは、現在の法的権利義務関係を確定するために必要不可欠な場合を除き、不適法として却下される対象となります。単なる事実関係や過去の行為の確認は、裁判の対象として認められにくい傾向にあります。
よくある質問
本件における裁判所の判断(主文)はどのような内容ですか?
1 原告の訴えのうち確認の訴えに係る部分(下記第1の3ないし5に記載のもの)を却下する。 2 原告のその余の請求をいずれも棄却する。 3 訴訟費用は原告の負担とする。
本件において原告が主張している権利侵害の対象物と、侵害されたとする権利は何ですか?
被告らが,原告の著作した書籍「タイム・リミット魔の時間帯-その1-」(甲2。以下「魔の時間帯」という。)や原告が作成した手紙(甲1の98,99頁に掲載されたもの。以下「本件手紙」という。)等を引用し,原告の顔写真(甲1の79頁に掲載されたもの。以下「本件顔写真」という。)を使用するなどして,本件刑事事件に関するテレビ番組(以下「本件番組」という。)を制作・放送し,同番組に関する書籍(甲1がその抜粋。以下「本件書籍」という。)を制作・出版し,又は,本件番組及び本件書籍を制作するための情報提供をした行為が,原告の著作権,肖像権,プライバシー権等を侵害するものである
被告Cが本件番組の制作を開始した経緯について教えてください。
被告C(以下「被告C」という。)は,平成4年7月当時,「ザ・スクープ」の番組ディレクターを担当しており,上記原告の支援者からの手紙を見て,本件刑事事件について取材(以下「本件取材」という。)を開始し,この取材に基づいて,本件番組を制作した
本件番組でキャスターを務めたのは誰ですか?
被告B(以下「被告B」という。)は,同番組のキャスターを務めた。
本件の基礎となる刑事事件(本件刑事事件)における第一審判決と控訴審判決の経過はどのようになっていますか?
浦和地方裁判所は,昭和60年9月,本件刑事事件について,原告に対し,死刑判決を言い渡し,原告は,控訴した(甲1)。 東京高等裁判所は,平成4年7月29日,本件刑事事件について,原告の控訴を棄却する旨の判決を言い渡し,原告は,同日,上告した(甲1)。
判決文抜粋
- 本件は、被告らが原告の著作した書籍や手紙等を引用し、原告の顔写真を使用するなどして刑事事件に関するテレビ番組を制作・放送、また同番組に関する書籍を出版した行為が、原告の著作権、肖像権、プライバシー権等を侵害するものであるとして、情報の使用差止め、損害賠償等を求めた事案である。
- 本件番組及び本件書籍は、全体として本件刑事事件をえん罪事件として扱い、原告が真犯人であることに疑問を呈する内容であった。
- 原告は、被告に対し、自らが作成した取調べ状況のイラストを郵送した。また、番組放送から数か月後、被告らから番組のシナリオの送付を受けた。原告の支援者は、書籍が出版された際、原告にそのコピーを渡していた。
- 原告は、支援者等から本件番組及び本件書籍の内容を知らされていたのに、本件番組放送後約12年間、本件書籍発行後約10年間、特に抗議することはなかった。
- 原告自らが取材活動の事実を知ってイラストを送付するなどの協力的行動を行なっていること、内容を知らされていたのに長期間抗議していないことを総合すれば、原告は被告らに対し、番組の制作・放送および書籍の制作・出版等に対し、承諾を与えていたことが明らかである。
- 過去の事実関係の存否の確認を求めるものは不適法である。また、損害賠償等の給付請求と重複して、当該権利を有することの確認を求める利益はない。