国立大非常勤講師らが無期転換と雇止め無効を求めた裁判
国立大学で長年働いた非常勤講師らが、労働契約法18条に基づく「無期雇用(期間の定めのない契約)」への転換や、雇止めの無効を訴えた事案です。裁判所は原告側の主張を認めず、大学側の対応を適法と判断しました。
基本情報
- 判決結果
- 原告敗訴
- カテゴリ
- 労働トラブル
- 裁判所
- 大阪地方裁判所 第5民事部
- 判決日
- 2025-01-30
裁判所・判決日: 大阪地方裁判所 第5民事部 / 2025-01-30
判決結果: 原告敗訴
カテゴリ: 労働トラブル
主な争点
- 過去の委嘱契約の法的性質と無期転換の成否 - 被告との間で締結されていた5年以上の委嘱契約が実質的に労働契約にあたるか、またそれに基づき労働契約法18条1項の無期転換の申込みによる無期雇用契約が成立したか否か。
- 雇止めの有効性と労働契約法19条の適用性 - 令和5年3月末の雇止めが、無期雇用契約の解雇として無効であるか、あるいは有期雇用契約としての更新の合理的期待(労働契約法19条2号)を認めるべき事案であり無効となるか否か。
- 労働条件の不利益変更(賃金減額)の有効性 - 有期雇用契約への切り替えに伴う賃金額の変更が、労働契約法9条が禁じる「労働者との合意のない一方的な労働条件の不利益変更」に該当し無効となるか否か。
- 将来の給付の訴えの適法性 - 判決確定日の翌日以降という将来の時点において発生する賃金の支払を求める訴えが、訴訟上の要件(あらかじめ請求しておく必要性)を満たし適法といえるか否か。
裁判所の判断ロジック
- 委嘱契約の雇用該当性: 過去の委嘱契約期間が労働契約法上の通算期間に含まれるかが争点となりましたが、実態として指揮監督下の労働とは認められず、無期転換権発生の前提となる期間には当たらないと判断されました。
- 労働条件変更の適法性: 新契約への移行に伴う賃金等の変更について、大学側の説明や手続きの合理性が認められました。結果として、社会通念上相当な範囲内であり、法に抵触する不当な不利益変更には該当しないと結論づけられました。
- 雇止めの法的妥当性: 無期転換権が成立していない以上、あらかじめ定められた期間満了による雇止めは有効であり、労働者に更新を期待させる合理的理由や特段の事情も認められないとして、原告側の請求は退けられました。
時系列
- 1993/04/01 - 原告Aが非常勤講師として任用
原告Aが旧国立大学法人E大学の非常勤講師として任用される。その後、2004年の法人化に伴い有期雇用の形態となる。
- 2007/10/01 - 国立大学法人の統合
被告大学がE大学を統合。原告らの契約関係は被告大学へと引き継がれることとなった。
- 2022/03/31 - 5年を超える委嘱契約の継続
原告らは被告大学との間で5年以上にわたり委嘱契約を締結し、教育業務に従事。原告側はこの契約が実質的な雇用契約であると主張する。
- 2022/04/01 - 有期雇用契約の締結と無期転換の申込み
原告らが被告と有期雇用契約を締結。原告らはこれまでの契約期間を通算し、労働契約法に基づき無期雇用への転換を申し込んだと主張した。
- 2022/04/01 - 労働条件の変更(不利益変更の主張)
新たな契約による賃金額の変更が発生。原告側はこれを一方的な労働条件の不利益変更であるとして、差額賃金の支払いを求める。
- 2023/03/31 - 大学側による雇止めの実施
契約期間の満了を理由に、大学側が原告らに対する雇止めを実施。原告側は無期雇用の解雇にあたるとして無効を訴える。
- 2023/04/01 - 提訴および訴訟の進行
原告らが、無期雇用契約上の地位確認や未払賃金の支払いを求めて提訴。雇止めの有効性や無期転換権の成否が主な争点となる。
実務上の学び
- 無期転換ルールの「5年」のカウント方法を確認する: 有期雇用契約が通算5年を超えると無期契約への転換を申し込めますが、この期間は原則として「労働契約」である必要があります。業務委嘱などの形式で契約していた期間が労働契約として認められるかどうかは、実態に基づいて判断されるため、自身の契約の性質を正しく把握しておくことが重要です。
- 契約形態が変更される際の条件変化に注意する: 委嘱契約から雇用契約へ切り替わる際など、契約の性質が大きく変わるタイミングでは、給与体系などの労働条件も変更されることがあります。変更内容が自分にとって不利益なものでないか、またその変更に合理的な理由があるかを契約締結前に書面でよく確認しましょう。
- 組織の統合や再編時の契約の承継関係を把握する: 勤務先の法人が統合されたり組織改編が行われたりする場合、それまでの勤続年数や契約上の権利がどのように新しい組織に引き継がれるかが争点になることがあります。組織変更の際に提示される書面や説明内容を整理し、継続性が維持されているかを確認しておくことが大切です。
- 雇止めに対する「更新の期待」の根拠を整理しておく: 長年契約を更新していても、雇止めが法的に有効と判断される場合があります。更新が当然であると期待できる客観的な事情(過去の更新回数、同様の立場の人の状況、更新時の言動など)があるかどうか、日頃から業務の実態や契約更新時のやり取りを意識しておくことが役立ちます。
よくある質問
本件訴訟において原告らが求めている「地位の確認」とはどのような内容ですか?
原告らが、被告に対し、期間の定めのない雇用契約上の権利を有する地位にあることを確認する。
原告らが無期雇用契約が成立したと主張する根拠は何ですか?
上記委嘱契約が雇用契約であり、労働契約法(以下「労契法」という。)18条1項に基づき無期転換の申込みをしたから、被告との間で令和4年4月1日(ただし、原告Aについては令和3年4月1日)を始期とする無期雇用契約が成立したと主張
令和5年3月31日をもってされた雇止めに対し、原告らはどのような法律上の主張を行っていますか?
令和5年3月31日をもってされた雇止めが、①上記(1)の無期雇用契約の解雇に当たり無効である、②労契法19条2号に違反して無効である
被告である国立大学法人の沿革について、判決文ではどのように述べられていますか?
被告は、平成16年4月1日に国立大学法人法により設立された国立大学法人であり、平成19年10月1日に国立大学法人E大学(国立大学法人化の前後を通じて、以下「E大」という。)と統合した
本件における裁判所の主文(判断の結果)はどのようなものですか?
1 本件訴えのうち、本判決確定の日の翌日から毎月17日限り(中略)支払を求める部分をいずれも却下する。2 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。3 訴訟費用は原告らの負担とする。
判決文抜粋
- 本件訴えのうち、(将来の給与請求等に関する)部分をいずれも却下する。原告らのその余の請求(無期雇用契約上の地位確認、差額賃金の支払等)をいずれも棄却する。訴訟費用は原告らの負担とする。
- 本件は、大学との間で5年以上にわたり委嘱契約を締結してきた非常勤講師らが、(1)委嘱契約は実質的に労働契約であり無期転換が成立した、(2)令和5年3月末の雇止めは無効である、と主張して、無期雇用契約上の地位確認や未払賃金の支払を求めた事案である。
- 原告らは、国立大学の統合前から非常勤講師として勤務し、統合後の平成19年10月以降、被告大学との間で期間6か月又は1年の委嘱契約を締結。少なくとも令和3年度(終期令和4年3月31日)まで、同契約を更新し続けていた。
- 被告大学は、平成25年に「有期雇用教職員の契約期間等に関する規程」を施行。有期雇用教職員の契約期間は、原則として通算して5年を超えることはできないと定め、非常勤講師の委嘱等に関する規程もこの通算ルールの対象に含まれていた。
- 従来の委嘱規程には報酬や守秘義務等の定めはあったが、解雇や懲戒に関する定めはなかった。その後、被告大学は令和4年4月1日より「非常勤講師就業規則」を施行し、解雇、給与、所定労働時間、懲戒処分等の労働条件を新たに定めた。
- 原告らは、委嘱契約が労働契約法18条1項の「労働契約」に当たり、無期転換の申込みによって無期雇用契約が成立したと主張。また、令和5年3月の契約終了は、無期雇用契約の解雇または労働契約法19条違反の雇止めとして無効であると主張した。