結婚披露宴を断念した新郎新婦に対し、ホテル側が求めた150万円のキャンセル料が否定された事例

新型コロナウイルスの感染拡大を受け、予定していた結婚披露宴を中止した夫婦に対し、ホテル側が規約に定められた約150万円のキャンセル料を請求した事案です。裁判所はホテル側の請求を棄却(退けること)し、夫婦側の支払義務を認めませんでした。

基本情報

判決結果
原告敗訴
カテゴリ
消費者トラブル
裁判所
名古屋地方裁判所民事第4部
判決日
2022-02-25

裁判所・判決日: 名古屋地方裁判所民事第4部 / 2022-02-25

判決結果: 原告敗訴

カテゴリ: 消費者トラブル

主な争点

  • 本件取消料条項の消費者契約法第9条1号に基づく有効性 - 披露宴日の90日前の解約に対し、見積金額の30%を一律に支払うという規約が、同期間に発生する「平均的な損害」を超えており、消費者契約法により無効となるか否か。
  • 新型コロナウイルス感染症の影響による免責または解約料免除の成否 - 緊急事態宣言の発出等の不可抗力的な社会情勢により、当初の契約内容(130名規模の披露宴)の履行が困難となったことが、規約上の免責事由や信義則上の取消料支払義務の消滅に該当するか。
  • 吸収分割に伴う承継参加人の請求権承継の妥当性 - 原告から承継参加人への事業承継(吸収分割)により、本件取消料請求権が適法に承継されたか、および承継参加人による請求が認められるか。

裁判所の判断ロジック

  • 消費者契約法による制限: 消費者契約法に基づき、解約に伴って事業者に生じる平均的な損害額を超える取消料の定めは、その超過分について無効とされる。
  • 平均的損害額の算定基準: 取消料が有効であるためには、人件費や食材費など解約により支出を免れた経費を控除し、実際に生じた損害に基づいた算定が必要である。
  • 損害立証の不十分さ: 挙式まで期間があり準備も本格化していない段階での解約では、多額の損害が発生したとは認められず、ホテル側の請求は棄却された。

時系列

  1. 2019/09/16 - 結婚披露宴利用契約の締結

    被告らが名古屋観光ホテルで挙式・披露宴を行うための契約を締結し、申込金20万円を支払った。挙式日は令和2年6月14日と設定された。

  2. 2020/03/23 - 招待状の打合せと感染症への懸念表明

    被告らがホテルで招待状の手配を依頼。その際、新型コロナウイルスの影響により出席者が減少する可能性をホテル側に伝えた。

  3. 2020/04/01 - 解約時の取消料に関する照会

    被告がホテルを訪れ、感染拡大の影響で予定通りの開催が困難な場合の解約について相談。ホテル側は規約に基づき見積額の30%の取消料がかかると回答した。

  4. 2020/07/06 - 取消料支払請求の支払期限日(遅延損害金の起算日)

    ホテル側が被告らに求めていた取消料(150万0803円)の支払期限。訴訟における遅延損害金の計算開始日となった。

  5. 2021/07/01 - ホテル事業の吸収分割と請求権の承継

    原告(ホテル運営会社)が事業を承継参加人に承継。これにより、被告らに対する取消料の請求権も承継参加人に引き継がれた。

  6. 2021/12/10 - 口頭弁論の終結

    裁判における主張や証拠の提出が終了。判決に向けた審理が完了した。

  7. 2022/02/25 - 判決言渡し

    裁判所は原告および承継参加人の請求をいずれも棄却する判決を言い渡した。

実務上の学び

  • 契約時の規約内容が判断に与えた影響: 本件判決は、契約締結時のキャンセル料規定や、「やむを得ない事情」発生時の免責条項の内容が、本件紛争において裁判所の判断に影響を与えうる要素として考慮されたことを示唆しています。
  • 社会情勢による影響の考慮: 本件判決は、感染症の流行や緊急事態宣言のような個人の努力ではコントロールできない社会的な事態が生じた場合、契約書に記載された通りのキャンセル料請求が常に認められるわけではない可能性を示唆しています。
  • 意思疎通の時期や内容、経緯が考慮された事実: 本件判決は、契約履行が困難な事情が生じた際の事業者との意思疎通の時期や内容、その経緯が、本件紛争における事実認定の過程で裁判所に考慮されたことを示唆しています。
  • 取消料計算基準の明確性が判断に与える影響: 本件判決は、取消料の算定基準が争点となりうる本件のような紛争において、規約における基準となる見積もり時点、具体的な計算方法、対象費用などの明確性が裁判所の判断に影響を与えうることを示唆しています。

よくある質問

本件規約5項(本件取消料条項)における取消料の定めはどのような内容ですか。

披露宴日の90日以内の披露宴の取消しの場合,申込金の全額と見積金額(見積金額が提示されていない場合は,計算基準額)の30%及び実費を,申込者である被告らが取消料として原告に支払う旨が定められている。

本件規約12項において、ホテル側が契約を解除できるのはどのような場合と定められていますか。

「③天災または施設の故障,その他やむを得ない事由により宴会場等を使用することができなくなった場合」等には契約を解約することがある旨の定めがある。

本件訴訟の係属中に、原告の権利義務に関してどのような変動がありましたか。

原告は,本件提訴後の令和3年7月1日,承継参加人に対し,原告のホテル・料飲事業に関する権利義務を吸収分割により承継させ,これにより,承継参加人は,本件訴えに係る原告の被告らに対する請求権を承継取得した。

原告および承継参加人が被告らに対して求めた請求の内容はどのようなものですか。

被告らは,原告(または承継参加人)に対し,連帯して,150万0803円及びこれに対する令和2年7月6日から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。

本判決の主文はどのような内容ですか。

1 原告の請求を棄却する。 2 承継参加人の請求を棄却する。 3 訴訟費用は原告及び承継参加人の負担とする。

判決文抜粋

  • 1 原告の請求を棄却する。 2 承継参加人の請求を棄却する。 3 訴訟費用は原告及び承継参加人の負担とする。
  • ホテルを運営していた原告が、結婚披露宴契約を締結した被告らに対し、披露宴日の90日以内に解約の申出がされたとして、規約に基づき算定された取消料から既払金を控除した残金150万0803円等の支払を求めた事案である。
  • 被告らは令和元年9月、令和2年6月14日の披露宴を申し込んだ。規約には、披露宴日の90日以内の取消しの場合、申込金全額と見積金額の30%及び実費を取消料として支払う旨が定められていた。
  • 令和2年4月7日、7都府県を対象に緊急事態宣言が発令された。翌4月8日、被告らは新型コロナウイルス感染症の影響により披露宴の開催が事実上不可能であると考え、原告に対し解約の申出をした。
  • 緊急事態宣言下で大人数での集会回避が要請されており、クラスターを発生させれば列席者やホテルに多大な迷惑をかけるため、やむなく解約した。不測の事態であり取消料条項は想定外であり、請求は権利の濫用にあたる。
  • 解約時点で愛知県に宣言は発令されておらず、披露宴当日には全国で解除されていた。感染対策を講じれば開催は十分に可能であり、新型コロナのまん延は直ちに契約を終了させる「やむを得ない事由」に該当しない。

判決文PDF(出典)