漫画家のA氏が、作品を無断転載した投稿者の特定を求めてプロバイダを提訴

漫画家として活動する原告が、自身の漫画作品をTwitterに無断で投稿した氏名不詳の人物を特定するため、インターネット接続業者(プロバイダ)に対し情報の開示を求めた事案です。裁判所は、投稿内容が原告の著作権を侵害していることを認め、情報の開示を命じました。

基本情報

判決結果
原告勝訴
カテゴリ
SNS・ネット
裁判所
東京地方裁判所
判決日
2021-12-21

裁判所・判決日: 東京地方裁判所 / 2021-12-21

判決結果: 原告勝訴

カテゴリ: SNS・ネット

主な争点

  • ログイン情報の「権利の侵害に係る発信者情報」該当性 - 本件各投稿の送信時ではなく、アカウントへのログイン時に割り当てられたIPアドレス等の情報(本件ログイン情報)が、プロバイダ責任制限法4条1項に規定される「権利の侵害に係る発信者情報」に該当するか。
  • 著作権侵害の有無と引用の適法性 - 本件投稿1に画像(本件各画像)を貼付した行為が、原告の著作物に係る複製権及び公衆送信権を侵害するか。また、その投稿が適法な「引用」として認められるか。
  • 名誉権侵害と真実性の抗弁の成否 - 本件投稿1の内容が原告の社会的評価を低下させる名誉毀損に該当するか、およびその投稿内容が真実である(または真実と信じるに足りる相当な理由がある)といえるか。
  • 名誉感情およびプライバシー権の侵害 - 本件投稿2の内容が、原告の主観的な名誉感情を著しく害するものか、または原告のプライバシーを侵害するものといえるか。
  • 発信者情報の開示を受けるべき正当な理由 - 原告において、本件発信者情報の開示を受けることについて法的な必要性(損害賠償請求権の行使など)が認められるか。

裁判所の判断ロジック

  • ログイン情報の開示認容: 投稿時の通信ログが保存されていない場合でも、投稿に使用されたアカウントへのログイン時の情報は、発信者の特定に不可欠なものとして開示の対象に含まれる。
  • 著作権侵害の明白性: 他人の著作物である画像を無断でSNSにアップロードし、公衆が閲覧できる状態に置く行為は、複製権および公衆送信権の侵害に該当すると判断された。
  • 開示を認める正当理由: 被害者が損害賠償請求等の法的手段を検討している場合、相手方を特定するために情報を取得することには法的な必要性と正当性が認められる。

時系列

  1. 不明 - Twitter上での権利侵害のおそれがある投稿の発生

    氏名不詳の人物が、Twitter上に原告(漫画家・同人作家)の制作した画像を含む投稿や、原告の名誉を毀損する可能性のある内容を計2回投稿しました。

  2. 提訴前 - 原告による権利侵害の特定

    原告は、一連の投稿が自身の著作権(複製権・公衆送信権)、名誉権、プライバシー権、および名誉感情を侵害していると判断しました。

  3. 2021年(令和3年)頃 - 発信者情報開示請求訴訟の提起

    投稿者を特定するため、原告はインターネット接続プロバイダである被告(GMOインターネット株式会社)に対し、プロバイダ責任制限法に基づき発信者情報の開示を求める訴えを起こしました。

  4. 2021/11/09 - 口頭弁論の終結

    裁判所にて双方の主張が出揃い、審理が完了しました。主な争点は、投稿が権利侵害に当たるか、およびログイン情報の開示が認められるかという点でした。

  5. 2021/12/21 - 判決言い渡し(開示命令)

    裁判所は原告の主張を認め、被告に対して発信者情報の開示を命じる判決を言い渡しました。これにより投稿者の特定に向けた情報の開示が認められました。

実務上の学び

  • 著作権侵害による発信者情報の開示: インターネット上の投稿において、他者の著作物を無断で転載・利用する行為は、著作権(複製権・公衆送信権)の侵害と判断される場合があり、発信者情報の開示対象となり得る。
  • ログイン時情報による投稿者の特定: 権利侵害が認められる場合、個別の投稿時の情報だけでなく、アカウントへのログイン時に割り当てられたIPアドレス等の情報も、投稿者を特定するための情報として開示が認められる可能性がある。
  • SNSにおける引用の適法性判断: 他者の著作物をSNSに掲載する際、それが「適法な引用」としての要件を欠いていると判断された場合は、著作権侵害の明白性が認められる一因となる。
  • 多角的な権利侵害への法的責任: 投稿の内容によっては、著作権侵害のみならず、名誉権やプライバシー権、名誉感情の侵害といった複数の権利侵害が同時に検討され、開示の正当な理由として考慮される。
  • 匿名投稿における法的責任の追求: 氏名不詳のアカウントによる投稿であっても、プロバイダ責任制限法に基づく適正な手続きにより、通信事業者が保有する発信者情報の開示が裁判所によって命じられる事例が存在する。

よくある質問

本件の原告はどのような人物ですか?

「B」というペンネームを用いて漫画家として,あるいは「C」というペンネームを用いて同人作家としての活動をしている者である。

原告は、本件各投稿によってどのような権利が侵害されたと主張していますか?

原告の著作物に係る複製権及び公衆送信権(送信可能化権を含む。),原告の名誉権,プライバシー権並びに名誉感情が侵害された

原告が被告に対し、発信者情報の開示を求める法的根拠は何ですか?

特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「法」という。)4条1項

本件における主な争点は何ですか?

(1) 本件発信者情報の「権利の侵害に係る発信者情報」(法4条1項)該当性(争点1) (2) 本件各投稿による原告の権利侵害の明白性(争点2) (3) 発信者情報の開示を受けるべき正当な理由の有無(争点3)

原告が開示を求めている「本件ログイン情報」とはどのようなものですか?

本件各投稿に用いられた別紙投稿記事目録の「ユーザー名」欄に記載されたアカウント(以下「本件アカウント」という。)にログイン(以下「本件ログイン」という。)した際に割り当てられたIPアドレス(以下「本件IPアドレス等」という。)等から把握される発信者情報

判決文抜粋

  • 被告(プロバイダ)は,原告に対し,発信者情報目録記載の各情報を開示せよ。訴訟費用は被告の負担とする。
  • 漫画家・同人作家として活動する原告が、ツイッター上の投稿により自らの著作権(複製権・公衆送信権)、名誉権、プライバシー権等が侵害されたと主張。インターネット接続サービスを提供した被告に対し、発信者情報の開示を求めた事案である。
  • 権利侵害投稿そのものの発信時ではなく、アカウントへのログイン時に割り当てられたIPアドレス等が、プロバイダ責任制限法上の「権利の侵害に係る発信者情報」に含まれるか否かが争われた。
  • 原告が自らのツイッターでヘッダーやアイコンに使用していたイラストについて、氏名不詳者が無断で投稿に貼付・アップロードした行為が、複製権および公衆送信権(送信可能化権)を侵害するか検討された。
  • 投稿記事に原告の活動名や「五輪ロゴ不正使用」「違法行為」といった記載がある点について、閲覧者に対し原告が違法行為を行ったとの印象を与え、社会的評価を低下させるものであるかが争点となった。
  • 被告側は、投稿内容が真実であり公益目的があるため違法性がないと主張したが、原告側は、公人ではない一私人の過去の行為を摘示するものであり、公共性や公益性は認められないと反論した。

判決文PDF(出典)