コンビニの客が、店主による防犯カメラ映像の警察への任意提供を肖像権侵害として訴えた事例
コンビニの客が、自分の映った防犯ビデオを店側が警察に渡したことを不当として提訴した事案です。裁判所は、店側の対応に違法性はないとして、客側の請求を全面的に退けました。
基本情報
- 判決結果
- 原告敗訴
- カテゴリ
- SNS・ネット
- 裁判所
- 名古屋地方裁判所民事第4部
- 判決日
- 2004-07-16
裁判所・判決日: 名古屋地方裁判所民事第4部 / 2004-07-16
判決結果: 原告敗訴
カテゴリ: SNS・ネット
主な争点
- 防犯ビデオカメラによる撮影の適法性 - 店舗内に設置された防犯ビデオカメラにより、客の容ぼうや姿態を無断で撮影・録画する行為が、肖像権やプライバシー権を侵害し不法行為を構成するか。
- 録画されたビデオテープの警察への任意提供の適法性 - 被告が警察官からの捜査協力依頼に応じ、裁判所の令状がない状態で、録画されたビデオテープを任意に提出した行為が、プライバシー権等の侵害にあたるか。
- 損害賠償請求の成否 - 被告による撮影およびビデオテープの提供行為について、原告の精神的苦痛に対する慰謝料および弁護士費用の支払義務が認められるか。
- 私人間における憲法13条(プライバシー権等)の適用性 - コンビニエンスストア(私企業)による防犯カメラの撮影が、憲法13条の保障するプライバシー権や肖像権を直接侵害し、違法となるのか。憲法の基本的人権規定が私人間に直接適用されるかどうかが争点となった。
- コンビニ店内における撮影・録画の不法行為該当性 - 不特定多数が利用し、公共的な機能も有するコンビニにおいて、客の承諾なく常時撮影・録画を行う行為が、肖像権やプライバシー権を侵害する不法行為にあたるかどうかが争点となった。
- 公権力による撮影の法理の私人間への準用 - 最高裁昭和44年判決が示した「公権力が容貌を撮影する際の厳格な要件(現行犯性、必要性、緊急性、相当性)」が、私人(店主)による防犯カメラの設置・運用にも同様に適用されるべきか。
裁判所の判断ロジック
- 防犯カメラ設置の目的: 店舗内に防犯カメラを設置し容貌を撮影することは、万引き防止や犯罪抑止という店舗管理上の正当な目的があり、社会通念上、許容される範囲内であると判断されました。
- 警察への協力の相当性: 具体的な容疑に基づく警察官からの捜査協力依頼に応じ、ビデオテープを任意に提供する行為は、捜査の必要性という公的利益に照らし、相当な行為として違法性が否定されました。
- 撮影の事前告知の効果: 「ビデオ画像電送システム稼働中」といった掲示により、利用者が撮影を予見し得る状況が整えられていたことは、肖像権侵害の有無を判断する上で重要な要素とされました。
時系列
- 2000/10/18 - コンビニエンスストアの経営開始
被告が株式会社Bとフランチャイズ契約を締結し、コンビニエンスストア「Ba店」の経営を開始した。
- 2000/10/18以降 - 防犯カメラシステムの導入と運用
犯罪や事故への対処のため、店内に防犯カメラ計6台を設置。入り口にはビデオ撮影中である旨の掲示を行い、24時間録画を開始した。
- 2001/08/18 - 原告の来店と防犯カメラによる録画
原告が本件店舗を訪れ、菓子パン等を購入。その際、店内に設置された防犯カメラにより原告の容貌や姿態がビデオテープに録画された。
- 2001/08/20 - 警察による捜査協力の要請
別件の有印私文書偽造等の容疑で捜査を行っていた愛知県警察の捜査員が来店。被告に対し、捜査への協力を求めた。
- 2001/08/20 - 録画ビデオテープの提出
被告は警察の依頼に応じ、原告の来店時間帯を確認した上で、該当する録画ビデオテープを捜査資料として警察に提出した。
- 2002/12/20頃 - 原告による損害賠償請求訴訟の提起
原告は、防犯カメラによる撮影および警察への録画提供が肖像権やプライバシー権の侵害にあたるとして、慰謝料等の支払いを求める訴えを起こした。
- 判決日(日付未詳) - 裁判所による請求棄却の判決
裁判所は、防犯目的の撮影には正当性があり、警察への提供も捜査協力として相当な範囲内であると判断。肖像権等の侵害を否定し、原告の請求を退けた。
実務上の学び
- 店舗内における防犯カメラ設置の正当性: 犯罪の予防や店内の安全確保を目的として、不特定多数が利用する店舗内に防犯カメラを設置し、客の容貌や姿態を撮影・録画する行為は、施設管理権に基づく正当な業務の範囲内として原則的に適法と解されます。
- 撮影事実の告知による肖像権侵害の回避: 店舗の出入口等に「ビデオカメラ作動中」といった掲示を行い、撮影の事実をあらかじめ客に知らせている場合、撮影に対する一定の了解が得られていると判断される要因となり、肖像権侵害の違法性が否定されやすくなります。
- 捜査機関への任意協力に伴うデータ提供の許容範囲: 犯罪捜査のために警察から協力要請があった際、店舗側が録画データを任意に提供する行為は、捜査の必要性に基づき、社会通念上相当な範囲内であれば、肖像権やプライバシー権を侵害する不法行為にはあたらないと解されています。
- 肖像権と公的利益の受忍限度: 個人の肖像権は法的保護の対象ですが、公共の安全や重大な犯罪の捜査といった公的利益との比較検討において、社会生活上受忍すべき限度内であると認められる場合には、その権利行使が制限されることがあります。
よくある質問
本件はどのような事案ですか?
原告が,被告の経営する店舗で買物をした際,店内に設置されていたビデオカメラによって容ぼう,姿態を撮影され,それを録画したビデオテープを補助参加人である愛知県の警察官に提出されたことにより,違法に肖像権,プライバシー権を侵害されたと主張して,被告に対し,これによって被った損害賠償として精神的苦痛に対する慰謝料200万円及び弁護士費用20万円,合計220万円並びにこれに対する遅延損害金の支払を求めた事案である。
被告が防犯システムを導入した経緯と、店内にどのような掲示を行っていたか教えてください。
被告は,B本部から,犯罪や事故に対処するための防犯システム態勢を整備することを勧められたことから,カラーカメラ4台,ダミーカメラ(外形上カメラの形状をしているが,カメラとしての機能を持たないもの)2台,ビデオ装置,カラーモニター等の機器を設置するとともに,店内の非常用ボタンを押すと警備会社へ通報され,非常通報を受けるとガードセンターが状況を把握するというシステムを導入した。被告は,このシステムを導入したことから,本件コンビニの2か所ある入り口の1か所付近に,「特別警戒中 ビデオ画像電送システム稼働中」との掲示をした。
録画されたビデオテープの管理方法と保存期間について教えてください。
被告は,録画したビデオテープを自ら深夜12時ころ交換しており,1日分を1本,被告が休むときは2日分を1本に録画し,録画したビデオテープは1週間保存し,順番に上書きして利用している。
警察が本件の捜査を開始し、被告の店舗を訪れた理由は何ですか?
愛知県警察本部公安三課(以下,単に「公安三課」という。)は,原告には,平成13年8月18日ころ,愛知県一宮市bc丁目d番e号所在のCホテル(以下「本件ホテル」という。)に宿泊した際,宿泊申込カードの,(a)ご芳名欄に「D」,(b)ご住所欄に「名古屋市f区gh丁目g荘」などと記載して同カードを偽造し,本件ホテルのフロント係に対して同カードを提出したとの有印私文書偽造・同行使,旅館業法違反の容疑があるとして,その捜査を開始した。同月20日,公安三課は,本件ホテルから最も近くに位置するコンビニエンスストアである本件コンビニにおいて捜査することとし,公安三課司法警察員警部補A(以下,「A警部補」という。)が,電話で被告に対し,事件捜査のために本件コンビニに赴く旨を伝えた。
本件判決の主文(裁判の結果)はどうなりましたか?
1原告の請求を棄却する。2訴訟費用は原告の負担とする。
判決文抜粋
- 1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。
- 原告が、被告の経営する店舗での買い物中に防犯ビデオカメラで撮影され、その録画テープを警察官に提出されたことにより、違法に肖像権、プライバシー権を侵害されたと主張して、被告に対し損害賠償を求めた事案である。
- 被告は、犯罪や事故に対処するため防犯システムを導入し、入り口に「特別警戒中 ビデオ画像電送システム稼働中」との掲示をしていた。カメラはレジ周辺や入り口などを撮影しており、録画テープは1週間保存し、順番に上書きして利用していた。
- 警察官が、犯人と思われる者が立ち寄った可能性があるとして捜査協力を依頼。被告はこれに応じ、売上げデータを管理するパソコンの操作に協力するとともに、原告の来店時間帯の映像が録画されている本件ビデオテープを任意に提出した。
- 個人の肖像権や、何を購入したかというプライバシー権は憲法13条により保障される。犯罪発生の蓋然性が全くない状況で来店客を無差別に撮影・録画し、店内の防犯目的以外の捜査のために提供することは、撮影目的を逸脱し違法である。
- 強盗などの犯罪防止、来客および従業員の安全確保のため、常時撮影・録画は不可欠である。店内にはカメラ設置を告知しており、利用者は撮影を承諾して来店している。公益目的である犯罪捜査への協力は当然のことであり、適法である。