土地を返すべき状況の建物賃貸人が、建物を使い続ける賃借人に賃料を請求した事件

土地の所有者から土地の返還を求められた建物の貸主が、その建物で営業を続ける借主に対し、未払いの賃料を請求した事例です。賃貸借契約の存否と、借主が土地所有者に支払った費用の扱いが争点となりました。

基本情報

判決結果
原告一部勝訴
カテゴリ
消費者トラブル
裁判所
神戸地方裁判所第5民事部
判決日
2004-01-09

裁判所・判決日: 神戸地方裁判所第5民事部 / 2004-01-09

判決結果: 原告一部勝訴

カテゴリ: 消費者トラブル

主な争点

  • 建物賃貸借契約の存続性の有無 - 土地所有者と建物所有者(原告)の間の借地契約が解除された後、建物賃借人(被告)が土地所有者との和解によって居住を継続している場合に、原告と被告の間の建物賃貸借契約が存続しているといえるか。
  • 土地所有者への直接支払による賃料債務の消滅範囲 - 被告(建物賃借人)が土地所有者Cに対し、和解に基づき損害金を直接支払った場合、その支払額を原告(建物賃貸人)への賃料支払とみなして控除できるか。また、その控除が認められる限度額はいくらか。
  • 未払賃料および遅延損害金の具体的な請求権の存否 - 既往の判決(本件控訴審判決2)の判断を踏まえ、約定賃料(月額11万4000円)から、被告が土地所有者に支払った損害金に基づく求償権を差し引いた残額について、原告の請求が認められるか。

裁判所の判断ロジック

  • 建物賃貸借契約の存続: 土地の借地契約が解除されても、建物が取り壊されずに入居者が使用を続けている間は、建物の賃貸借関係は消滅せず存続していると判断されました。
  • 使用収益に伴う賃料義務: 明渡しの猶予を受けて建物で営業を継続し、利益を得ている以上は、入居者は賃貸人に対して契約通りの賃料を支払う義務があることが認められました。
  • 支払済損害金の求償控除: 入居者が土地所有者に直接支払った損害金のうち、賃貸人が土地所有者に対して本来支払うべきであった金額の範囲内については、賃料から差し引くことが認められました。

時系列

  1. 1969/09/20 - 建物賃貸借契約の締結

    原告の母と被告の夫との間で、本件建物部分の賃貸借契約が締結。その後、原告が賃貸人、被告が賃借人の地位をそれぞれ相続した。

  2. 1993/01/06 - 地主による土地賃貸借契約の解除

    地主Cが、借地人である原告の賃料不払いを理由に借地契約を解除。建物の収去と土地の明渡しを求めて訴訟を提起した。

  3. 1994/09 - 建物収去土地明渡判決の確定

    地主Cと原告の間の訴訟で、原告に建物収去と土地明渡しを命じる判決が確定。これにより原告は地主に対する借地権を失った。

  4. 1995/09/12 - 地主と被告(賃借人)の裁判上の和解

    地主Cと被告の間で、被告が将来の退去を約束する代わりに平成17年まで居住を猶予され、地主に損害金を支払う内容の和解が成立した。

  5. 1996/02 - 原告による賃料請求訴訟の提起

    原告が、被告に対し平成6年9月分以降の賃料支払いを求めて提訴。被告は賃貸借契約の終了を主張し、敷金の返還を求めて反訴した。

  6. 1998/03/12 - 前訴の控訴審判決(賃貸借関係の継続)

    裁判所は、被告が建物の明渡しを猶予されている間は賃貸借契約も存続していると判断。被告に対し、賃料の支払いを命じた。

  7. 2000/03/01 - 本件判決(賃料及び遅延損害金の支払い命令)

    未払賃料の支払いを求める本件訴訟において、裁判所は被告に対し、47万1400円及び同年3月1日からの遅延損害金の支払いを命じた。

実務上の学び

  • 建物使用継続による賃料支払義務の存続: 土地の賃貸借契約が終了し、建物収去の判決が確定した後であっても、建物賃借人が土地所有者との和解等により明渡しを猶予され、対象物件の使用収益を継続している場合には、建物賃貸人に対する賃料支払義務が発生し続ける可能性がある。
  • 土地所有者への直接支払額と賃料債務の調整: 建物賃借人が土地所有者に対して直接、土地使用の対価として損害金等を支払った場合、その支払額のうち一定の範囲については、建物賃貸人に対する賃料支払において求償権や相殺の対象となり、実質的な二重払いを回避する調整が行われることがある。
  • 裁判上の和解による明渡し猶予と契約関係の維持: 土地所有者との間で成立した和解によって建物退去が猶予された場合、その猶予期間中は建物が物理的に存続し、賃借人による占有・使用が認められるため、建物賃貸借契約が存続しているとみなされ、賃料発生の根拠となる場合がある。

よくある質問

本件建物部分の当初の賃貸借条件はどのようなものでしたか?

期 間 昭和44年9月20日から3年間 賃 料 月6万円 支払方法 毎月末日限り翌月分を持参払い 敷 金 200万円。ただし,明渡時に敷引として1割を控除する。 更 新 期間満了の際,当事者双方の協議により更新できる。

昭和63年5月以降、本件建物部分の賃料はいくらになりましたか?

本件建物部分の賃料は昭和63年5月分から11万4000円に改定された。

土地所有者Cと原告(賃借人)との間の借地契約はなぜ解除されたのですか?

Cは原告に対し,平成5年1月6日,賃料不払いを理由に借地契約を解除し,建物収去土地明渡請求訴訟を提起した。

土地所有者Cと被告との和解(本件和解)において、明渡しの猶予期間はいつまでとされましたか?

Cは,被告に対し,平成17年9月末日まで上記退去明渡を猶予する。ただし,同期日までに都市計画事業等によって本件建物が解体されるときはその時期までとする。

本件控訴審判決2は、賃貸借契約の存続についてどのように判断しましたか?

被告が本件建物部分の明渡しを猶予されている間は,本件建物の収去は不可能であるから,明渡猶予の間本件建物は存続し,被告が使用収益していることを理由に,本件建物部分の賃貸借契約は存続している

判決文抜粋

  • 被告は,原告に対し,47万1400円及びこれに対する平成12年3月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。原告のその余の請求を棄却する。
  • 本件は,原告が被告に対し未払賃料及びこれに対する弁済期の経過した後である平成12年3月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払いを求める事案である。
  • 本件建物部分の賃貸が営業として行われたことを認めるに足りる証拠はないから,原告の請求する賃料債権は10年間の消滅時効(民法167条1項)にかかると解すべきである。
  • 本件建物を存続させることは原告の事務と認められる。被告は土地所有者との和解に基づき損害金を支払うことで建物の収去を防ぎ,これを存続させたのであるから,被告の行為は原告に対する事務管理と認めることができる。
  • 被告の支出額は従前の地代と比較して高額であるが,被告の事務管理の結果,原告は被告に対する損害賠償責任を免れるなどの利益を得ている。原告にとって高額に過ぎる費用償還の問題は,現に利益を受ける限度においてのみ費用償還を認めることで対応すれば足りる。

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