テレビ出演の有名弁護士が、キャバクラでの言動を報じた雑誌社に対し損害賠償を求めた事例

テレビ番組「行列のできる法律相談所」に出演していた弁護士が、月刊誌「噂の眞相」にキャバクラでの不適切な言動を掲載され、名誉毀損およびプライバシー侵害を主張した事案です。裁判所は、一部の記述について真実であるとの証明がないとして、雑誌社側に30万円の支払いを命じました。

基本情報

判決結果
原告一部勝訴
カテゴリ
SNS・ネット
裁判所
東京地方裁判所民事第49部
判決日
2004-02-19

裁判所・判決日: 東京地方裁判所民事第49部 / 2004-02-19

判決結果: 原告一部勝訴

カテゴリ: SNS・ネット

主な争点

  • 名誉毀損の成否(社会的評価の低下) - 記事中の「お気に入りの女の子に『乳首触らせて』と迫っていた」という記述が、原告の社会的評価を低下させ、不法行為(名誉毀損)に該当するかどうかが争点となりました。
  • プライバシー権侵害の有無 - 弁護士でありテレビ番組に出演する公的な側面を持つ原告の、キャバクラへの出入りや店内の行動を報じることが、私生活上の平穏を害するプライバシー侵害に当たるかが争われました。
  • 肖像権侵害の有無 - キャバクラという密室性の高い空間で、本人の承諾なく撮影された写真を雑誌やインターネット上に掲載する行為が、肖像権の侵害に該当するかが争点となりました。
  • 損害賠償額の算定 - 名誉毀損、プライバシーおよび肖像権の侵害が認められる場合、それによって生じた精神的苦痛を慰謝するための相当な賠償額がいくらになるかが争われました。

裁判所の判断ロジック

  • 名誉毀損の成立: 弁護士が飲食店でセクハラと取られかねない言動をしたと報じることは、その人物の社会的評価を低下させるものであり、不法行為にあたると判断されました。
  • 肖像権侵害の認定: 私的な飲食店内でくつろぐ姿を無断で撮影し、雑誌に掲載する行為は、たとえテレビ出演等を行う有名人であっても許容限度を超えた権利侵害であるとされました。
  • 公共性の否定: 週に数回キャバクラに通っている等の私生活上の事柄を報じることは、公共の利害に関わる正当な目的によるものとは認められず、違法性が阻却されないと結論づけられました。

時系列

  1. 2002/09 - 原告が人気テレビ番組への出演を開始

    弁護士である原告が、バラエティ番組『行列のできる法律相談所』にレギュラー出演し、著名人として知られるようになる。

  2. 2002/10/07 - 被告のホームページに情報が掲載される

    雑誌『噂の眞相』の発行元である被告が、自社ウェブサイト上に原告に関する記事の一部(一行情報)を掲載した。

  3. 2002/11/09 - 雑誌『噂の眞相』12月号が発行される

    原告がキャバクラに通い、店内で不適切な発言をしたとする記事や、隠し撮りされた店内の写真が「フォトスキャンダル」として掲載された。

  4. 2002/11/09 - 名誉毀損等を理由に損害賠償請求訴訟を提起

    原告は、記事の内容が事実無根であり、名誉毀損、プライバシーおよび肖像権の侵害に当たるとして、300万円の損害賠償を求めて提訴した。

  5. 2004/02/19 - 東京地方裁判所が判決を言い渡す

    裁判所は、被告に対し30万円の支払いを命じる判決を下した。記事の内容による権利侵害を認めつつも、賠償額は原告の請求額の一部に留まった。

実務上の学び

  • 公的な活動を行う人物のプライバシー権: メディア等に出演し社会的な知名度がある人物であっても、私生活のすべてを公開されるべき義務があるわけではない。飲食店のようなプライベートな空間における活動を、本人の許諾なく撮影・公表する行為は、プライバシー権や肖像権の侵害を構成する可能性がある。
  • 名誉毀損における事実摘示の責任: 他者の社会的評価を低下させる具体的な事実を報じる際、その内容が真実であるか、あるいは真実と信じるに足りる正当な根拠が欠けている場合、名誉毀損による不法行為が成立し、損害賠償責任が発生し得る。
  • 公共性と公表内容の関連性: 著名人の私生活に関する報道であっても、それが公共の利害に関する事柄でない場合、表現の自由に基づく正当性は認められにくい。特に個人的な酒席での言動など、専ら興味本位で報じられる内容は、法的保護の対象外となる傾向がある。
  • 裁判における損害賠償額の決定要因: 名誉毀損や肖像権侵害が認定された場合であっても、裁判所は記事の内容、媒体の部数、本人の社会的地位、侵害の程度などを総合的に考慮して賠償額を算出する。そのため、原告側の請求額がそのまま認容されるとは限らず、事案に応じた調整が行われる。

よくある質問

本件における主文第1項の内容はどのようなものですか?

被告は,原告に対し,金30万円及びこれに対する平成14年11月9日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

本件の原告はどのような人物ですか?

原告は,東京弁護士会所属の弁護士であり,平成14年9月ないし11月当時,日本テレビ放送網株式会社をキーステーションとして制作・放映されていた「行列のできる法律相談所」と題するテレビ番組(以下「本件テレビ番組」という。)に出演していた。

原告は、どのような法的根拠に基づいて損害賠償を請求しましたか?

民法709条,710条に基づき,損害賠償金300万円及びこれに対する不法行為の日である平成14年11月9日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。

本件雑誌に掲載された記事のタイトルはどのようなものですか?

「バラエティ番組出演中の有名弁護士を目撃 池袋のキャバクラに通うAの素顔」

記事の中で、特に「本件摘示部分」とされているのはどのような記述ですか?

「一度,話が盛り上がった時に,お気に入りの女の子に『乳首触らせて』って迫ってた(笑)」

判決文抜粋

  • テレビ番組に出演していた弁護士(原告)が、自身のキャバクラでの言動や写真を掲載した月刊誌「噂の眞相」の発行元(被告)に対し、名誉毀損、プライバシーおよび肖像権の侵害を理由として損害賠償を求めた事案です。
  • 記事では「池袋のキャバクラに通うAの素顔」と題し、原告が頻繁に店を訪れて特定の女性従業員を指名していることや、店内で「乳首触らせて」と卑猥な発言をして迫ったとする具体的な言動、および店内の写真を掲載しました。
  • 被告側は、原告がテレビ番組で男女関係の法律問題に回答していたことから、原告の男女関係に関する考え方は視聴者の正当な関心の対象であり、記事の内容は公共の利害に関する事実に該当するため、違法性はないと主張しました。
  • 裁判所は、原告がキャバクラで遊興していた事実は一般には知られておらず、みだりに他人に知られたくない私生活上の事実に当たると認定。弁護士としての職務活動を離れた私生活上の行状を具体的に摘示することは、原則としてプライバシーを侵害するものと判断しました。
  • 女性従業員に卑猥な発言をしたとする記述について、裁判所は「原告が自らの欲求を抑えられない人格の持ち主であるとの印象を読者に与える」と指摘。原告の社会的評価を低下させる名誉毀損に当たると認めました。
  • 裁判所は、被告の行為による名誉毀損およびプライバシー侵害を認め、被告に対し、原告へ30万円および遅延損害金を支払うよう命じました(その余の請求は棄却)。

判決文PDF(出典)