健康ランドを運営する会社が、地価下落を理由に賃料減額を求めたものの認められなかった事例

建物を借りて健康ランドを経営する会社が、周辺地価の大幅な下落を理由に賃料の減額を求めました。しかし、裁判所は契約締結時の経緯やその後の経済状況を検討した結果、現在の賃料が不当に高いとはいえないとして、訴えを退けました。

基本情報

判決結果
原告敗訴
カテゴリ
不動産トラブル
裁判所
東京高等裁判所第19民事部
判決日
2003-02-13

裁判所・判決日: 東京高等裁判所第19民事部 / 2003-02-13

判決結果: 原告敗訴

カテゴリ: 不動産トラブル

主な争点

  • 賃料不相当性の判断基準時 - 賃料が不相当になったか否かを判断するにあたり、比較の基準となる時期を、実質的な賃料合意がなされた平成3年5月とするか、正式に賃貸借契約が締結された平成7年7月とするか。
  • 経済事情の激変による賃料減額請求の可否 - 地価の下落等の経済事情の変動により、合意された賃料が借地借家法32条1項にいう「不相当」なものとなったか。
  • バブル崩壊後の契約における事情変更の考慮 - 本件契約がバブル崩壊後に締結されたものであることを前提に、その後の地価下落が「予見し得ない事情変更」に該当するか。

裁判所の判断ロジック

  • 賃料合意の基準時期: 賃料が不相当かを判断する基準日は、当初の合意(平成3年)ではなく、建物の仕様変更を経て正式に契約を締結した平成7年を重視すべきであると判断されました。
  • 経済事情の変動予測: 賃料減額の請求には「予測できない変動」が必要ですが、バブル崩壊後の契約締結であれば、その後の地価下落はある程度予測できたものとみなされました。
  • 賃料の不相当性の判断: 周辺の地価下落が認められる場合であっても、契約の経緯や期間を総合的に考慮すれば、直ちに従前の賃料が著しく不相当になったとは認められないとされました。

時系列

  1. 1991/05/11 - 建物賃貸借に関する当初の合意

    賃借人(控訴人)と当時の地主との間で、指定仕様の建物を建築・賃貸借することに合意。当初はスーパーマーケットとしての利用が予定されていた。

  2. 1994/11/19 - 予約契約の締結と用途の変更

    控訴人の都合により、建物の用途をスーパーから「健康センター」に変更。本契約と同趣旨の賃貸借予約契約が締結された。

  3. 1995/07/12 - 本件賃貸借契約の正式締結と引き渡し

    建物の完成に伴い、期間20年、月額賃料約656万円とする正式な賃貸借契約を締結し、物件の引き渡しが行われた。

  4. 1999/08/01 - 地価下落に伴う賃料減額の主張(第1段階)

    控訴人が、経済事情の変動を理由に、同日から2001年8月末までの賃料を月額約556万円に減額するよう求めた基準日。

  5. 2001/09/01 - さらなる賃料減額の主張(第2段階)

    控訴人が、継続する地価下落等を理由に、同日以降の賃料を月額約518万円に減額するよう求めた基準日。

  6. 不明 - 第一審判決(請求棄却)

    地方裁判所は、地価の下落は認めつつも、従前の賃料が著しく不相当になったとまでは言えないとして、控訴人の請求を棄却した。

  7. 不明 - 控訴審判決(控訴棄却)

    高等裁判所も、本契約がバブル崩壊後に締結された点などを重視。第一審の判断を支持し、控訴人の賃料減額請求を退けた。

実務上の学び

  • 賃料減額請求における経済事情の変動の判断基準: 土地価格の下落のみを理由に直ちに賃料減額が認められるわけではなく、借地借家法に基づき、租税等の公租公課の増減、土地建物の価格の変動、その他の経済事情の変動により、現在の賃料が「著しく不相当」となったかどうかが総合的に判断されます。
  • オーダーメード型建物における賃料の特殊性: 賃借人の指定する仕様で建築された建物(オーダーメード建物)の場合、賃料には建物建築費の回収という側面が含まれるため、一般的な建物と比較して、周辺の賃料相場の変動のみによる減額請求が認められにくい傾向があります。
  • 賃料合意時点の経済背景の重要性: 賃料減額の適否を判断する際、その賃料がいつ合意されたかが重要視されます。バブル経済崩壊後など、既にある程度の地価下落が進行した時期に締結された契約においては、その後のさらなる下落が「予期せぬ経済情勢の変動」とはみなされない場合があります。
  • 長期契約における合意内容の拘束力: 20年といった長期間の契約において、当初の建築経緯や投資回収計画を含めた合意がなされている場合、契約の安定性が重視されます。地価の下落率が一定の範囲に留まる場合、従前の賃料額を維持することが著しく不当であるとは判断されにくい実情があります。

よくある質問

本件控訴に対する裁判所の主文はどのようなものですか?

本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とする。

本件賃貸借契約において、建物の使用目的はどのように定められていますか?

① 使用目的 控訴人の経営する健康ランド

本件賃貸借契約の期間はいつからいつまでとされていますか?

② 期間 平成7年7月12日から平成27年7月11日までの20年間

控訴人は、本件の賃料についての合意がいつなされたと主張していますか?

本件賃貸借契約が締結されたのは平成7年7月12日であるが,賃料についての合意がなされたのは平成3年5月11日である。

控訴人の賃料減額請求に対し、当裁判所はどのような判断を下しましたか?

当裁判所も,控訴人の賃料減額請求は理由がないものと判断する。

関連する論点

判決文抜粋

  • 本件は、賃借人が賃貸人に対し、健康センターとして使用している建物の賃料につき、経済事情の変動や地価の下落等を理由に賃料の減額確認を求めた事案である。原審において請求が棄却されたため、賃借人が控訴した。
  • 本件契約は、貸主が借主の指定する仕様で建物を建築し、その残りの土地を駐車場として貸すという、いわゆる「オーダーメイド賃貸」である。このような建物は汎用性を欠き、期間途中で終了した場合に貸主が投下資本を回収することは容易ではない。
  • 契約上の「賃料が著しく不相当となったとき」とは、貸主が投下した建築資金等を安定的に回収する必要性があることを前提に、その事情を考慮してもなお、約定賃料を継続することが当事者間の公平に反するような経済事情の変動が生じた場合をいう。
  • 土地価格の下落は認められるものの、建物価格は経年的減価を考慮すれば著しく下落しているとはいえない。土地建物価格の下落をもって、当事者が予測できないような経済情勢の変動があったとか、賃料が不相当になる程度に減額されたとはいえない。
  • 賃借人側の経営状況が直ちに賃料に反映されるとすれば、賃貸人の地位が著しく不安定になる。本件は長期的な視点から貸主の投下資本回収を安定的に図る趣旨の契約であり、借主側の収益事情が直ちに賃料減額事由に結びつくものではない。
  • 近傍類似の賃料と比較しても、本件建物の賃料が著しく不相当になったと認めることはできない。以上のとおり、賃料を減額すべき事情は認められないから、控訴人の請求は理由がないものとして棄却する。

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